「Salesforce」「Office 365」「G Suite」といった有名ツールが火付け役になり、ビジネスで普及が進んでいるSaaS。導入効果よりも「SaaS」という名前が先行していて、実際にSaaSで何ができるのか明確にわかっていない方も多いかもしれません。

この記事では、SaaSでできることや導入後の成功例・失敗例について紹介します。

▼そもそも「SaaS」とは?▼
SaaSの意味とは?何ができる?有名ツールも紹介

SaaSはクラウド上のソフトウェアである

SaaSは「Software as a Service」の略です。日本語だと「クラウドサービスとして提供されているソフトウェア」を意味します。目的別に多くのソフトウェアが開発されているように、SaaSもツールによってそれぞれできることが異なります。

より厳密に言えば、SaaSとは「特定の機能を提供するサービス」です。
同じクラウドサービスである「IaaS(Infrastructure as a Service)」や「PaaS(Platform as a Service)」はクライアントによってカスタマイズする余地がありますが、機能まで含めてパッケージされているSaaSは基本的にクライアント側で細かくカスタマイズすることはできません。
中には機能の範囲が広いSaaSはありますが、原則としてこのカスタマイズ性については同じことが言えます。

「カスタマイズの余地がない」という事実はデメリットにも聞こえますが、ニーズが明確になっているクライアントにとっては手軽に使えることがメリットとなります。

SaaSとして提供されているサービスの例

SaaSによって何ができるかは、提供されているサービスによって異なります。

SaaSとして提供されている代表的なサービスの例を紹介します。

ストレージ

オンラインストレージのサービスを利用すれば、デバイスの記憶領域を拡張できます。多くのオンラインストレージサービスはマルチデバイスに対応しており、複数のデバイスでファイルを共有可能です。また、他のユーザーと共有する領域を作ることもできます。

ブラウザやクライアントアプリで利用するためSaaSと分類できますが、いわゆるインフラを提供しているため「IaaS(Infrastructure as a Service)」とも言える例です。
「HaaS(Hardware as a Service)」「STaaS(STorage as a Service)」とも呼ばれています。

オフィスソフト

ドキュメント編集ソフト、表計算ソフト、スライドショー作成ソフト、メーラーなど業務で使うことが多いソフトを「オフィスソフト」と呼びます。
もしくは、これらをワンセットにパッケージした商品についても「オフィスソフト」という総称を用います。一般的にはMicrosoftの「Office」シリーズを指す言葉です。

オフィスソフトについても、クラウドサービスとして提供する例が多くなってきています。

  • バージョンアップごとにパッケージを購入する必要がない
  • 複数のデバイスで同じアカウントを使用できるため、さまざまな場所で仕事ができる

といった点がメリットとして挙げられます。

パッケージ提供されていたソフトウェアをクラウドに移行した代表的なSaaSと言えるでしょう。

CRM

CRMは「Customer Relationship Management」の略であり、日本語では「顧客関係管理」を意味します。もしくは「顧客情報を管理するためのシステム」という意味も一般的です。

顧客を中心に考える必要がある現在のビジネスにおいて、顧客との関係を良好にしていくためのツールとして利用されています。

かつては企業が独自にCRMを開発するのが一般的でしたが、現在は多くの企業がSaaSCRMを利用しています。自社開発と比較すると導入コストが低いため、資金力がない中小企業でも気軽にCRMを導入できるようになりました。

CRMとは?▼
顧客管理システムCRMとは|CRMの基本情報とオススメツール21選

MA

MAは「Marketing Automation」の略であり、顧客とのコミュニケーションを自動化するツールを意味します。

顧客ごとにオーダーメイドのコミュニケーションを実施する「One to Oneマーケティング」は、顧客の数が多くなればなるほど困難になり、人間の力だけで行うのは現実的ではありません。MAを使えば、コミュニケーションの大部分を自動化でき、より重要なタスクに人間のリソースを使えるようになります。

CRMと同様にかつては自社でMAを構築するのが一般的な導入方法でした。現在はSaaSとして提供されているMAを使う企業が増えてきています。
取り扱うリード数(顧客情報)が少ないBtoBの企業はSaaS型MAを使うことが多いようです。

▼MAとは▼
Web初心者でもわかる!マーケティングオートメーション(MA)超入門

SNS

SaaSとWebアプリケーションの境界線はあいまいであり、さまざまな意見があります。SNSはWebアプリケーションとしての性質を有していながら、SaaSとも言える例です。

SNSというと一般ユーザー向けのイメージがありますが、近年はコミュニケーションの活性化を目的とした社内SNSも活用されています。
グループウェアをまとめたSaaSの中には、チャットやスケジュール管理機能のほか社内SNSの機能を組み込んでいるものも少なくありません。

SaaS・クラウド導入の成功例

SaaSを導入すると、企業にはどのような良い影響があるのでしょうか?

SaaS・クラウドサービスを導入して、成功した例を紹介します。

CRMで顧客管理を最適化

業態によってはデリケートな顧客管理が求められます。
会社の規模や顧客数が一定のボリュームを超えると、表計算ソフトなどで管理するのは困難です。現在は、様々な規模に対応できるCRMSaaSとして提供されており、顧客管理を効率化できます。

とりわけCRMが効果を発揮するのがトラブル時です。
トラブルの経緯や対応の履歴が記録されているため、システムを閲覧すればだれでも情報を共有できます。
また、SFAとCRMをひとつにまとめているシステムを利用し、顧客管理効率化と売上向上を同時に実現している企業も少なくありません。

クラウドストレージで共有が簡単に

USBメモリ、CD-Rといった物理ストレージを使う場合、都度データの移動や記録に時間がかかります。さらに、置き忘れは紛失のリスクも考えられ、セキュリティの観点からも好ましくありません。記録できるファイルの大きさにも限界があります。

クラウドストレージを使用すれば、リンクを知るだけでファイルやフォルダを共有可能です。ストレージの容量制限内であれば、ファイルの大きさを意識する必要はありません。
元のファイルを更新すれば最新のファイルをシェアできるため、上述した物理ストレージでの共有と比較してファイルのバージョン管理が大幅に楽になります。

ペーパーレス化を実現

ファイルの印刷が多い現場では、ドキュメントの共有をクラウドストレージで行うことによりペーパーレス化を実現できます。スマートフォンやタブレットとクラウドストレージを併用できれば、印刷コストを大幅に抑えることもできるでしょう。

学校法人などではクラウドストレージが実際に活用されています。
「試験前、コピー機に並んでいた長蛇の列がなくなった」「学生に提供できる資料の量が増えた」といった声が挙がっています。

会計ソフトで経理業務が正確に

会計業務には、スピードと正確性が求められるため、負担が大きい仕事です。
加えて、利益を直接生み出す仕事ではないため多くの会社は会計業務に多くのリソースを割けません。新興企業や中小企業は、会計業務と他の業務の両立に苦労しています。

SaaSの会計ソフトはそうした企業にとって大きな力になります。会計業務が効率化されるため、他の業務のリソースを圧迫しません。手書きや表計算ソフトでの記帳に比較すると、ミスも大幅に減少します。

導入コストが低い点や法改正への対応がスピーディーな点もSaaSの会計ソフトならではのメリットです。

クラウドオフィスソフトを導入し異なる場所・デバイスで作業

クラウドオフィスソフトのメリットは、利用する場所やデバイスを問わない点です。インターネットデバイスさえあれば、どこでも作業ができます。クラウドストレージと併用すれば、ドキュメントの共同編集なども容易です。

近年は作業場所を問わない柔軟な働き方が認められるようになりました。クラウドオフィスソフトは、こうした働き方の普及に一役買っています。自宅やオフィス、カフェやコワーキングスペース、移動中の電車内など、スケジュールや好みに合わせた働き方が実現できます。

社内SNSで社内コミュニケーションの活性化

企業規模が大きくなるほど、コミュニケーションがセグメントごとに限定されてしまいます。部署間のコミュニケーションが滞った場合、情報共有が遅くなってしまうことも少なくありません。メールや電話での連絡も手間がかかってしまいます。

多くの企業は社内SNSの導入により、部署間の円滑なコミュニケーションを実現しています。「同意」や「了解」といった簡単な意思表示であればスタンプで済ませられるため、メールや電話よりはるかに手軽です。

SaaS・クラウド導入のよくある失敗例

SaaS・クラウドを導入しても、成功するケースばかりではありません。
SaaS・クラウド導入後の典型的な失敗例を紹介します。

想定外のコスト

一般的には、SaaS・クラウドサービスに移行するとコスト削減効果を期待できると考えられています。しかし、実際にどれほどの効果が出るかはケースバイケースです。

それほどコストがかかっていない業務にSaaS・クラウドサービスを導入しても、思っていたほどのコストダウンにつながらない場合があります。反対に、それまで大規模な自社システムを使っていた業務にSaaSを導入する場合、移行やデータ統合のコストは無視できません。

また、クラウドサービスは月額制で提供されているため、ランニングコストが長期的に発生することも覚えておきましょう。

導入目的の共有不足

SaaS・クラウドサービスの導入を決定する経営陣・上層部と、実際にツールを使う社員の間に認識の違いが生じる場合があります。
特に、「ツールが導入されたものの、必要性がわからない」と社員が感じてしまうケースが多いようです。

結果として、操作方法の浸透不足やシステムの形骸化が生じてしまいます。

アクセス障害で業務が困難に

クラウドサービス・SaaSの稼働率はベンダーに依存します。
障害の発生率はベンダーの入念な対策により少なくなっていますが、万が一ネットワーク障害によってシステムがダウンすれば、一時的にサービスが利用できなくなってしまうかもしれません。

停止が許されない業務をSaaSで行っている場合、障害によって大きな損害を被ってしまうケースが考えられます。

クラウド環境の乱立で管理がストレスに

業務ごとに複数のクラウド環境を使用することも可能です。
しかし、クラウド環境が増大すると、それぞれの管理がコストになってしまうことがあります。

それぞれ操作方法が違う場合は、教育のコストも無視できません。可能な限り一元管理できるシステムを導入することは重要です。

SaaS導入に失敗しないために

SaaSを導入する際には、まず導入の目的を深堀して検討しましょう。
「トレンドに合わせて」「業務が効率化されると聞いた」といったあいまいな動機では失敗してしまう可能性があります。どの業務をどのように効率化したいのか入念に検討しておけば、必要以上にコストがかからない最適なツールを選べるはずです。

障害による業務停止を回避するためには、ベンダーのセキュリティ体制に注目する必要があります。バックアップ体制が充実しているベンダーや拠点が複数あるベンダーは信頼度が高いと言えます。保証稼働率や障害時の対応が明記されたSLA(Service Level Agreement)に注目することも大切です。

また、SaaSを導入する企業にもある程度の準備が求められます。
特にコストや実際に業務がどう変わるかといったシミュレーションは欠かせません。
導入の目的を社員に共有し、スムーズに移行できるようにしておくことも重要な準備です。

まとめ

SaaSそのものは、単にクラウド経由で特定の機能を提供するシステムです。成功も失敗も導入する企業によって決まります。
今回紹介した成功例に共通しているのは、「企業側がSaaS導入後の業務変化をイメージし、しっかりと準備を行っている」という点です。

SaaSを導入する際はこの記事で紹介したような失敗が起こり得ることを十分に把握し、入念な準備をしておきましょう。

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