顧客の感情を動かすようなCX(顧客体験)を提供することで、一時的な消費者ではなく自社の”ファン”へと育てる施策の重要性が高まっています。

かつて、企業にとっては商品の魅力や機能性を高めていくことが重要でした。しかしそれだけでは差別化が難しくなった現在、商品やサービスを利用する顧客の「体験」を向上させることが求められています。

そこで注目されているのが、顧客体験の全体像を捉え、体験によって得られる価値を最大化するためのCXM(顧客体験マネジメント)です。

CXMの概念を正しく理解し活用法を知ることで、顧客体験の向上に組織で取り組みやすくなるはずです。今回はCXプラットフォームKARTE(カルテ)」を提供する株式会社プレイド社監修のもと、マーケティングにおけるCXMの役割や、実践する上でのポイントを紹介します。

CXM(顧客体験マネジメント)とは?

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「CX=Customer Experience (顧客体験)」は、商品やサービスの購入前、利用時、購入後のあらゆる顧客接点で顧客が体験する、情緒的・機能的な価値のことです。

顧客体験が注目されるようになった背景には購買パターンやビジネスモデルの多様化など、市場環境の変化があります。商品やサービスが溢れ、商品だけでは顧客を惹きつけることは難しくなってきた現在は、「価格」や「機能性」といった商品の機能的な価値だけではなく、商品の利用を通じて得られる「満足感」や「喜び」というような顧客の感情を重視し、CXを重視する企業も増えています。

このCXを向上させることで顧客と企業の関係性を育み、収益の向上を目指す手法が「CXM=Customer Experience Management(顧客体験マネジメント)」です。より良いCXを提供するためのシナリオを設計し、継続的にCXを改善するための仕組み作りを行うことで、事業の成長を目指します。

より良いCXを実現するための取り組みは、1つの部門で完結できません。マーケティングをはじめ、営業やエンジニア、カスタマーサポート、経営層まで全社共通の目標としてCXを意識する必要があります。そのためにも、顧客体験の質を向上させる活動を体系化し、マネジメントする取り組みが求められています。

例えば、実店舗とECサイトでオーダースーツを販売する「FABRIC TOKYO(ファブリック トウキョウ)」はCXM専門の部署を開設。単なる顧客サポートやクレーム処理のための部署ではなく、顧客体験の向上に組織で取り組むための司令塔として、オンライン、オフライン双方のCXに向き合っています。

CXMとCRMの違い

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CXM(顧客体験マネジメント)は、2000年前後に登場したCRM(顧客関係管理)を経て2010年頃に生まれた概念です。その変遷を知ることで、CXMへの理解を深めていきましょう。

「 LTV(顧客あたりの生涯売上げ)の最大化」を指標におくCRM

CRMは、顧客との関係づくりを通じてリピーターへと育成する「リレーションシップ・マーケティング」をITで支援することを目的に、90年代後半に誕生したマーケティング手法です。

90年代の先進国は、モノがあふれ、大量生産・大量消費を前提としたマスマーケティングは行き詰まりを見せ始めていました。新規顧客獲得のためのコストが上昇し、消費者ニーズが多様化するなか、顧客を「個」として捉え、既存顧客への対応を強化することの重要性が見直されたのです。こうした背景のなかで、CRMではマーケティング活動におけるKPIを「『 LTV=Life Time Value(顧客あたりの生涯売上げ)』の最大化」と定め、顧客の属性や購買行動などをデータ化することで個々の顧客に対して最適なアプローチを行うことを目指しました。

しかし、実際にはデータによって抽出された優良顧客に対して電話勧誘をしたり、一定期間利用のない顧客にキャンペーンメールを送ったりするなど、限定された接点による施策も多くなりました。

その結果、本来目的としていたはずの顧客との関係性を強化するどころか、顧客が負の感情をもつ危険性も強まり、CRMの理念や効果に対する批判や議論も活発化しました。そのような中、CRMが見落としていた「顧客の感情」に注目し、顧客と企業の全ての接点における体験の価値を管理するCXM(顧客体験マネジメント)は生まれました。

「顧客体験の価値の最大化」を目的に収益向上を目指すCXM

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CXMの概念を広めた、アメリカの経営学者B・シュミットは、著書「経験価値マネジメント」のなかで、CXMを「顧客と、商品や企業との関係性を戦略的にマネジメントするプロセス」と表現しています。

「顧客の視点に立って満足度を高め、長期的な関係性のなかで収益をあげる」といったCRMの本質を実現させるため、サービスの認知から購入にいたるまで顧客の体験を包括的に捉え、そのプロセスを管理するのがCXMの取り組みです。さらに現在は、デバイスの多様化や定額課金型サービスの増加を受け、CXMが担う役割も大きくなっています。あらゆる顧客接点において体験の質を高め、継続的に顧客との関係を築くことが求められているのです。

例えば、動画配信サービスのNetflixは、ユーザーがどんなコンテンツを選んだかだけではなく、何を見始めて、どこで停止し、その次に何を選んでいるかという一連の流れを追うことで、レコメンド機能の向上に取り組んでいます。さらに各国のネットワーク環境や決済方式、使用するデバイスに合わせてコンテンツを作ることで最良のNetflix体験を提供することを目指しているといいます。

CRMは、統計的な数値を収集し分析することで「成果を生む」ことを重視する一方で、CXMは購買行動の全てのプロセスで「良い体験を作る」ことにフォーカスし、収益の向上を目指す取り組みだといえるでしょう。

CXMに取り組むうえで重要な4つのポイント

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では、企業はどのようなステップでCXMに取り組んでいけばよいのでしょうか。より良い顧客体験の実現に向けた戦略の立案と実践のための重要なポイントをお伝えします。

1.指標を決める

CXの向上を目的とした活動を適切にマネジメントしていくためには、客観的に顧客の状態を測るための指標が必要です。顧客の自社に対する愛着や信頼を測るための指標は様々ありますが、代表的なものに「NPS」や「リピート率」が挙げられます。NPSやリピート率が高いほど自社商品やサービスに対するファンが多く、顧客ロイヤリティが高い状態だといえます。

2.顧客を知る

指標が決まったら、現状の顧客の状態を可視化しましょう。顧客の興味や価値を感じるポイントを知ることで、戦略的にCXの設計が行えるからです。まずは全ての顧客接点を洗い出します。カスタマージャーニーマップを作成し、体験の起点から完了までのプロセスを整理していきましょう。

また顧客の年齢、性別、居住地、勤務先、職業などの統計データや、ページ閲覧履歴、商品購入履歴、デバイス情報などの行動履歴、さらにソーシャルメディアや位置情報といったデータを合わせて分析し、カスタマージャーニーマップで可視化した顧客接点ごとに体験の質をあげるための施策を考えていきます。

3.パーソナライズした体験を提供する

体験の良し悪しは、人がおかれている状況やタイミングによっても異なります。体験の質を高めるためには一人ひとりに合わせたアプローチを行うことが大切です。現在はマーケティング活動をサポートするためのツールの普及も進み、最適なタイミングで商品やサービスを提案したり、顧客に合わせて機能やデザインを最適化して表示することもできるようになりました。しかし、顧客体験のパーソナライズ化はマーケティングだけに求められるものではありません。

例えば、スタイリストによるコーディネイト提案で月額の洋服レンタルサービスを提供する「エアークローゼット」は、お客様からファッションスタイル自体についてのフィードバックだけではなく、利用シーンやチャレンジしたいテーマなどを聞くようにしています。その回答を参考にプロのスタイリストが洋服やアクセサリーを送付し、さらに受け取った顧客からのフィードバックを受けて翌月以降に届ける服のマッチング精度を高め、“エアクローゼットならではの感動体験”を生み出しています。

CXMでは、顧客データを活用し、パーソナライズ化された体験をあらゆるチャネルで提供できるように考えることが必要です。

4.継続的に改善を繰り返す

CX向上のための施策を行ったら、実際に効果があったのかどうか2週間~1カ月程度のタイミングで検証を行います。顧客の行動フローやコンバージョン率などの数値的な計測はもちろん、顧客からの生のフィードバックを収集することで体験の改善に活かしていきましょう。

これらの活動を継続的に行い、PDCAサイクルを回していくことで、全ての顧客接点における体験の質を向上させていきます。

組織全体でより良いCXの実現を

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これまで挙げてきたように、CXMは顧客体験の質を向上させるための重要なマーケティング手法です。日本でもCXMに取り組む企業が増えていますが、テクノロジーの進化や消費モデルの多様化によって、この流れはさらに加速していくと考えられます。

一時的な活動として取り組むのではなく、顧客視点でのサービス作りを組織全体で行い、改善を積み重ねることで、より良いCXを提供していきましょう。

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