Webメディアの代表的なマネタイズ方法として挙げられるのが「広告」です。

一方で広告をむやみやたらに掲載してしまうと、メディアに掲載されたコンテンツの見え方やメディアのブランドを損ね、場合によってはユーザーに不快な体験を提供してしまう要因にもなります。

では、メディアの事業者や担当者はどのように広告事業と向き合ったら良いのでしょうか。

媒体社が考えるべきビジネス戦略について、株式会社スケダチ代表として媒体社の広告事業などへのアドバイスを行いつつ、米国のネイティブ広告プラットフォーム企業 Sharethroughの日本市場代表を担う高広伯彦 氏にferret Founding Editor 飯髙悠太が「メディアにとっての広告ビジネス」、「広告取引の多様化」という視点から伺いました。

高広伯彦 氏プロフィール

takahiro-2.jpg

1970年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部卒、同志社大学大学院修士課程修了(社会学修士)、

株式会社博報堂の営業職としてキャリアをスタート。その後90年台後半よりデジタル領域のビジネスに関わり、同社インタラクティブ局、株式会社博報堂DYメディアパートナーズ i-メディア局を経て、2004年には株式会社電通に入社。インタラクティブコミュニケーション局にてプロデューサー/コミュニケーションデザイナー。2005年12月からは、グーグル株式会社 広告営業企画チームのシニアマネジャーとして、AdWordsなど広告プロダクトのマーケティング、YouTubeの広告ビジネスの日本導入、公に陽の目を見なかったGoogleのオフラインメディアの広告事業開発に関わる。2009年には「スケダチ」として独立。広告ビジネス開発領域のコンサルティングや、各種マーケティングコミュニケーションの企画やコンサルティングを行っている。また2012年には共同創業者として日本初のインバウンドマーケティング領域及びB2Bデジタルマーケティングの支援企業「マーケティングエンジン」を立ち上げ、同社を2013年と2014年の二年連続でHubSpot社の国際部門の最優秀代理店に導いた。2014年からは再びスケダチの事業にフォーカスをし、各種マーケティングの支援を行っている。2015年6月からは米国のネイティブ広告企業 Sharethrough Inc.の日本事業の代表も務めており、デジタル領域を中心に幅広くマーケティング広告のビジネスに関わっている。また、現在、京都大学経営管理大学院博士課程に籍を置き、社会情報大学院大学で客員教授を行うなど、マーケティングなどにアカデミックな観点からもアプローチしている。

著書に『次世代コミュニケーションプラニング』、『インバウンドマーケティング』。第二回東京インタラクティブアドアワードグランプリ授賞(『日産自動車 WebCINEMA TRUNK』)他デジタルクリエティブ/マーケティング関連の受賞歴多数。日本インタラクティブ広告協会ネイティブ広告委員会主査。

引用:スケダチ及び高広伯彦について

メディアにはビジネス戦略が欠けている?

takahiro-3.jpg

ferret 飯髙(以下:飯髙):
高広さんは様々なメディアなどで「メディアは広告でマネタイズしていくべきだ」とおっしゃっています。しかし、純広告の販売だけでなくアドネットワークや広告枠のオンライン買い付けができるプログラマティック取引など、広告には様々な取引形態が存在します。メディアはどのようにマネタイズに動いたら良いのでしょうか。

高広 氏:
インターネット広告の黎明期から、「リッチメディア広告」というのが台頭した2000年前半までのWebメディア業界は「広告商品をいかに開発して売っていくか?」に対して業界内の皆が頑張っていた印象があります。

しかし、今のWebメディアの人々は、自分たちで商品開発をして自分たちで売りに行くんだという考え方が昔とくらべて希薄になってきている気がします。

その理由がメディアレップやアドネットワークに頼ってマネタイズしているということ。どちらにも共通するのは、メディア側が「自分たちで枠を商品開発して売っていない」ということですね。

そもそも今のWebメディアの担当者たちは、自社の媒体に合った広告を売るというビジネス戦略的な発想や感覚に慣れていないのかもしれません。むしろ広告は自動的に入ってくるものないしは、言い方は良くないですが「売れるもの」だけを売っていて、自分たちのメディアの価値を正しい価格で売るためのセールスマーケティングや、その手前の商品企画そのものができてないケースがよく見られます。

そうした広告ビジネス戦略という考え方が薄いため、例えば、ネイティブ広告1つ取ってみても、ネイティブ広告は自社のビジネスにどう貢献するのか、そもそもイメージができてない場合があります。

フォーマットとして「自分たちのメディアに馴染んだ広告が出る」とわかっていても、ビジネスにどう貢献するのかまでわからないというように。

飯髙:
広告によるビジネスへの貢献という視点を持っているメディア担当者はまだ少ないかもしれませんね......。

高広 氏:
今の日本の媒体社って、タイアップ記事を販売するケースが多いじゃないですか。そこで、制作費込で10,000PV保証みたいな感じで提案している。

10,000PV保証(もしくは、想定)として売ったとき、メディアにもよりますが、6~7割が自社のWebサイト内のリンクからの誘導。残りの3~4割がFacebook広告だとか、他の枠を買い付けて外部からトラフィックを稼ぐというものです。

もし、7割が自社のWebサイト内のトラフィックからすると、7,000クリック分の広告枠を無料提供していることになるじゃないですか。CTRが平均0.1%の広告枠だとすると7,000クリック分と考えたら、700万インプレッション分です。

つまりスポンサードコンテンツタイアップ広告・記事広告PV保証で売ってるという今よく見られる形態は、すなわち制作にコストをかけてなおかつ実質的に広告枠を無料で提供しているということになる。

本来、メディアが提供する広告価値というのは、あるターゲット層・読者層に対する「リーチ」なんですよ。「OTS(Opportunity to See)」と言って、「(広告を)見られる機会」を提供するのがまず第一。

見られない広告は役に立たないので、この先にクリックがあろうが、コンバージョンがあろうが、まず第一の価値はこの”OTS"なのですね。なので、この基本・原理原則に一旦立ち戻って、メディアが売れるものはまず「特定の読者へのリーチ」なんだと。

そう考えると、その層にリーチをしたい広告主に、「コンテンツの制作」を買ってもらうだけでなく、「広告枠」も適切な金額で取引されるよう努力するべきなんだと思います。なのに、コスト高になる制作費込みのタイアップ広告・記事広告の販売を続けていくと、メディアとしてスケールしないのではないかと思います。