マーケターがやるべき仕事とは-(良品計画 奥谷氏・antenna* 高木氏・Kaizen Platform 瀧野氏・トレジャーデータ堀内氏)
9月29日、トレジャーデータ株式会社主宰のイベント「緊急企画:良品計画 奥谷さんが語るこれからのマーケティング」が開催されました。
今回は、本イベントで行われた、良品計画奥谷氏、antenna* 高木氏・Kaizen Platform 瀧野氏・トレジャーデータ堀内氏によるパネルディスカッションの様子をお届けします。
登壇者紹介
パネリスト
良品計画 元WEB事業部長 奥谷 孝司氏
1997年良品計画入社。
3年の店舗経験の後、取引先の商社に2年出向しドイツ駐在。
家具、雑貨関連の商品開発や貿易業務に従事。帰国後、海外のプロダクトデザイナーとのコラボレーションを手掛ける「World MUJI企画」を運営。2003年には良品計画初となるインハウスデザイナーを有する企画デザイン室を立ち上げメンバーとなる。05年衣服雑貨部の衣料雑貨のカテゴリーマネージャー。現在定番商品の「足なり直角靴下」を開発、ヒット商品に。10年WEB事業部長。「MUJI passport」のプロデュースで14年日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会の第2回WebグランプリのWeb人部門でWeb人大賞を受賞。10年早稲大学大学院商学研究科夜間主MBAマーケティング・マネジメントコース(守口剛ゼミ)修了。
2015年10月よりオイシックス株式会社入社、COCO(最高オムニチャネル責任者)に就任予定。
Kaizen Platform, Inc. SVP of Production 瀧野 諭吾氏
GREEならびにGREE Internationalで、ゲームプロダクト・ゲーミングプラットフォーム・アドテクノロジー分野におけるプロダクトマネジメント及びにプロジェクトマネジメント領域の組織マネジメントから実務全般を担当し高い実績を誇る。
2014年2月よりKAIZEN platform プロダクト責任者。
GLIDER associate,INC.antenna* 事業本部 R&D室長 高木 一成氏
2006年マクロミル入社。
リサーチ&コンサルティング営業として個人売上の全社記録を更新。
以降、ネットリサーチ事業部門マネジャー・購買データベース事業部門マネジャーを経て、Questant、ブランドデータバンクなどの事業責任者として従事。
20015年4月より、キュレーションマガジン「antenna* 」 を運営するグライダーアソシエイツ入社。
antenna* 事業の価値創造に向けて、R&D領域を担当。
ファシリテーター
トレジャーデータ株式会社 堀内 健后氏
プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント株式会社(現日本アイ・ビー・エム株式会社)で業務・システム系コンサルティングに従事。
2006年、 マネックスビーンズホールディングス(現マネックスグループ株式会社)に入社、顧客向けBtoCのWebサービスの企画・開発のプロジェクトマネージャー として活躍。
2013年2月、トレジャーデータ株式会社に日本事業の立ち上げから参画。
ABテストとマシンラーニング(機械学習)はバランスよく取り入れるべき
奥谷氏:
マシンラーニング(機械学習)とABテストの関係って重要だと思います。
MUJI passportを作ったときに、レコメンデーションのオムニチャネル化を進めたんですね。
MUJI passportとは?
http://www.muji.net/passport/
iOS
Android
無印良品が提供する、店頭での購買促進を目的としたスマホ向けアプリ。店舗でのチェックインや買い物、口コミを投稿すると付与される「MUJIマイル」は買い物時に使用できる「MUJIショッピングポイント」に交換可能。
奥谷氏:
レコメンデーションのオムニチャネル化ってなにかというと、MUJI passportを使ってお客様が買い物をするうようになったので、オフラインでの買物データがとれるようになったんです。
今までレコメンデーションといえばネットストアの中にあって、ネットストアの行動が見えていたからコンバージョンに寄与してたんですが、それってオフラインでもできるんじゃないかと思って入れてみたんです。でも結局ABテストの方が良いねって結論になったんですよね。
なぜかというと、MUJI passportで買い物されるのって普通よりは多いんですが、(年間で)たったの8回なんですよ。その8回の買い物が主変数になって動くレコメンデーションになるわけです。
結局そのセクションは消しちゃったんですが、今日買い物すると、次の買い物は1ヶ月以内には起こらなんです。マシンラーニングってインプットがないと同じ方程式のままだから、同じ答えをただ出すだけじゃないですか。
だから「365日-8日」の間はずっと同じ答えしか出さないわけです。もちろんネットで何か見てくれたり買ってくれると変わりますけど。
一方、ネットストアの方は(インプットが多いから)ちゃんと機能するし、精度は上がるんですよね。
そのネットストアのアルゴリズムに基づいて、毎週月曜のメールで9セクション選出して出すと、結果に寄与するんです。
しかし、それもメールの見え方として、9マスあって左上にあるものが一番目立つんだからそれがただクリックされてるだけじゃんという見方もできる。「えーでもせっかくお金かけて導入したのになあ」となった時、マシンラーニングには「これって効いてるの?」って聞けないじゃないですか。
ABテストなら担当者がいるから人間同士のコミュニケーションができて何かしらの答えが返ってきますが、マシンラーニングには聞けない。何が効いてきたか、あまりにもオムニチャネル化してきたがゆえに広すぎてわからないんですね。だったらABテストが良いかなと。
ただ、やはり両方やったほうがいいですね。両方まわして両方のデータをちゃんと取る。人間は見なくてもいいけど機械が自動的に取ってくれるものが、データ分析のベースになります。それも無いのにただABテストやっても、やらない方がいいよとなります。
どちらかに振れすぎちゃダメなんですよね。両方をうまく掛けあわせてやるのが重要かなと。
堀内氏:KAIZENさんはマシンラーニング導入しつつ、人もバイアスかけてやっていくということもできるんですか?
瀧野氏:
最初はもともと、マシンラーニングもなく、すごくシンプルなABテストから始まってるんですよね。
実際やってみてわかったのは、高額商品のような、母数が集まりづらい商材を扱っている箇所でA/Bテストをやっていても判断が難しいんですよね。
時間経過とともに周辺要因が変化するわけで、長い時間を掛けてやった一つのABテストの結果、たまたまAが勝ちましたとか、結果を鵜呑みにできない。
オムニチャネル化が進んでいろんな接触点があって、人それぞれのライフスタイルがあるわけで、どういう経緯でそこにたどり着いたのかなということを掛けあわせて見ていく必要があります。こうだったからAがよかったとか、こうだったからBがよかったってことがあって、深くマーケティングを考えている人はわかるはず。
ただ、それを人が全て事前に仮説設計することは不可能なので、有効なパターンの網羅性を高めていく際にはマシンラーニングは有効です。
ただマシンラーニングも万能ではなくて、学習していけば精度は高くなっていくけど、外れる場合も当然あるので、その結果も再学習させて継続していくことはとても大事です。
それに、学習の結果を吹き飛ばすような外部要因が突然生まれることもありますし、人がそういった部分を理解して介入することも欠かせない。
割りと機能するものができてはいますが、今引き続き研究を続けているっていう状態です、
堀内氏:antenna さんは出す面側としてはそういう風になっていくんですか?*
高木氏:
そうですね。antenna* の場合は背景が黒だったり白だったり色を入れたりして変えると、反応率が違うなというのはあります。
ただ、反応率が良かったのは、そもそもクリエイティブがお菓子だったのかとか、たまたまその時間に女性が多く見ていたのかとかという外部要因が大きいのかなと。結果としては一瞬数字が出るので「背景は白がよかった」となるんですが、反応率が揺れ動くというのはあるんだなと思いますね。
結果としては「背景白がよかったね」ってなるんですけど。
堀内氏:やっぱり、皆さんの見解としては、まずやってみないとわからない。ABテストを継続していかないと。1ショットだけじゃわからないということですよね。
高木氏:
1ショットじゃ難しいですね。データとしてそれが優位なのかわからないし、因果関係も見えない。継続性がないと難しいと思いますね。
データの蓄積・分析は機械に、仮説・検証は人に任せるのが理想
堀内氏:MUJI passportのように自社でプラットフォームを作れればいいんですが、自社で作れない場合は、KAIZENさんやantenna さんとか、または他のメディアさんも含めてどんどんABテストをやっていったほうがいいんですか?*
奥谷氏:
ABテストとかマシンラーニングでいうと、僕がMA(マーケティングオートメーション)ツールに求めるのは、絵を書けること。ばくっとABテストができますよ。それをやって成功したとか失敗したのは1ショットじゃ意味がないです。
何回もやるんですが、一方でABテストにも限界があると思うのは、担当者が「わかった」と言っても3ヶ月後、実はわかってないことがわかってくる。ABテストは顧客セグメントを小さくすることなんで、大企業になるほど非効率なことをやってることになるんですよね。そこで、わかったということをいかにマシンラーニングに覚えさせるかということ。
例えば、ABテストを担当してくれているA君がいたとします。でもA君が人事異動などでいなくなったときに、B君が来て全く違うことをやり始めると困るんです。そこでマシンラーニングがABテストの結果をとっておく。
すると1ショット×Xのデータを蓄積できるので精度があがる。
そういうベースがあると、新しいマーケティングオートメーションツールができていくのかと思いますね。
堀内氏:ABテストの結果すらも学ばせたほうがいいということですね。
奥谷氏:
そうです。
統計的に優位じゃなくても、もし機械が一定のアルゴリズムで考えた結果がたまっていくと、例えばこれはこの間たまたま成功したデータと類似していると。時間的な変数とか、女性がよく見ているとか、じゃあ女性向けにこういうクリエイティブを出せばいいというのがわかってくればいいわけです。
願わくば、そういうのが10本出てきて、その中から確率が高いもの、売上がたかいものからためしていく。それで一週間やってみて、うまくいくもの、いかないものを分析するんです。
オフラインの情報の重要性
奥谷氏:
ネットストアのペルソナ分析をずっとやってた時があったんですけど、ペルソナは化粧品と調味加工が買われる傾向が強いんですよね。ただ店舗はどうなっているかわからない。売り場が違うから。でも店舗でも、かごを見るとそれらの商品が入ってたりするんですよ。その感覚は忘れがちになります。
実はオフラインから感じられることがたくさんあるけど、それを全部人間がやるのは限界に近い。
そこで自動化の精度があがれば、より仮説を作りやすくなる。人間はひたすら仮説を作り、それ以外は自動化できるのが理想ですね。
そもそものプロダクトが良いものということが大前提
奥谷氏:
(antenna* さんのようなメディアを使うときは)もともと持ってるコンテンツが重要になってくるんですよね。もちろん数字も重要ですが、ある程度の定性性が必要。
antenna* さんにやってもらいたいのはブランドジャーナリズムのところなんで、企業のホントのとこが女性に見てもらえるので、うちでいうとフットカバーの地味な開発秘話というところもやってもらったりしましたし。
そのうえで、インプレッション保証超えた、コストも下回った、じゃあこれは使えるよねっていう話になってきます。
ガリガリやるABテストは自社内でやることで、こちらはペイドでやってるんで、どれだけもってこれるのか、どういうコンテンツが効くのかというのは、マーケターの数字的な嗅覚と定性的なもの両方必要で、当てはまるものを読み解くのは結構難しいですよね。
堀内氏:これは結構プレッシャーですね…(笑)
高木氏:
まさしく、どういうコンテンツがうけるんでしたっけというのはすごく大事だと思ってます。
ためになるものじゃないとそもそも読まないんですよね。
パーソナルスペースであるスマホにおいて、更にニュースと混在してるコミュニケーションにおいて、最適なコンテンツのあり方っていうのは我々のなかでためていかなきゃいけないし、それをフィードバックしていけるようにしていかなきゃけないですね。
奥谷氏:
まあプレッシャーとは言いましたが、そもそも企業側がなにかネタがあるからantenna* さんにストーリーをリライトしてもらって出すわけで、持ってるものがダメならダメなんですよね。マーケターのセンスというか、これはユーザーに伝えれば勝てるという、精度の高い妄想力をもたないといけない。
いかに精度の高い妄想力を持ってコンテンツマーケティングに踏み込むか。
で、小さな成功体験を繰り返していって、antenna* さんでこういう特集を組んでみようという。
使う側が考えないといけない。責任がどっちにあるかというと、ブランド側ですから。
高木氏:
コミュニケーションの切り口までズバッと言っちゃうとマーケターさんの仕事なくなっちゃうんで、そこはお手伝いできればいいかなと思います。
自社のことを一番考えられるのは、代理店ではなく会社の人間
堀内氏:Kaizenさんは代理店さんとのお付き合いって普通にあるんですか?
瀧野氏:
ありますけど、奥谷さんが仰ったとおり、マーケティング担当者は、自分で自分の会社の商品やマーケティングのことを、どれだけ考えているかが重要だと思います。 ブランドを10年20年をしっかり考える、製品のことを考えられるひとはやはり自社の人だと思うんですよ。
そうなってくると、我々もそうですが、代理店やクラウドソーシングが企画やクリエイティブを供給するのはあくまでサポートなんですよね。妄想力っていうのは経験や実体験が積み重なっていって精度の高い妄想が生まれてくるわけで、それがないと「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる」になってしまう。
マーケターの方がもっと自分で判断できるように考えて努力する世界にそのうちいくんじゃないかなと考えてます。
堀内氏:確かにマーケター側からすると自分で触れるものが増えてきたから、色々やらなきゃいけないことが増えている世界になっていくと。
奥谷氏:
僕が両社を使うとすると、自分の会社の社員に最も時間を割いてほしいのはantenna* さんで、逆にABテストは引いてほしい時がありますね。
ABテストは、データサイエンティスト的な、ブランドのことは全くわからない、数字だけで完全に判断してみるという人がいる方がいいんですよね。そういう代理店機能をKaizenさんなどがやってくれると良いと思うんですよね。
でもantenna* さんを使うときって定性的な話でいいんだから、自分が何年も働いているブランドのことまともに話せないんじゃ話にならないですよね。
まとめ
売上向上のためには様々な手段がありますが、奥谷氏が話されているとおり、そもそもブランドが良いものでなければいくらマーケティングをやっても成功することはほとんどないでしょう。
顧客の問題を解決できるプロダクトであることを前提として、マーケターがやるべきことはプロダクトを熟知し、最適なマーケティング手段はなんなのかを考えるべきだと登壇者の方々は口を揃えて語られていました。
自社製品を求めている顧客に対して的確にアプローチするためにはどのような手法が最適なのか。
マーケターの手腕がますます問われる時代になってきています。
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