Webマーケティングの世界では人間の行動特性を利用して、サービスの成長(Growth)を仕組み化(Hack)する「グロースハック」というマーケティング手法が数年前から注目を集めています。

例えば、購買履歴や閲覧履歴を元に、ホームページの構成が毎回変わっていつの間にか他の商品を購入していたり、もしくは友達にサービスや製品を紹介することで特典を付与し、ユーザー数を増やして売上を継続的に伸ばしていく、というアクションがそれに該当します。

今回は、「グロースハック」を理解するために押さえておきたい5つのポイントとグロースハック によって見事成功を収めた企業の事例をご紹介します。

1. グロースハックは「持続可能な成長」する考え方

1.jpg

まず「そもそもグロースハックとは何か?」というところから説明します。

グロースハックの正式名称は「Growth Hacking」で、2010年にQuaraloo社を設立したアメリカの起業家ショーン・エリス氏が唱えた考え方だと言われています。

ただし、「グロースハック」は比較的新しい概念なので、中立機関による言葉の定義はされていません。ショーン・エリス氏らによれば、グロースハックはこのように定義されます。

「グロースハックとはプロダクトの本質的な価値を理解し、その可能性を把握して実際に成長していくアクションのこと。また、グロースハッカーとは成長を自身のコンパスにしている人のこと。実現可能な成長への可能性を徹底的に精査し、成功を実現させる人のこと」

従来のWebマーケターが広告の出稿、コピーライティング、アクセス分析などをそれぞれ単独に改善していくのに対し、グロースハックはあらゆるものを総合的に精査し、アクセスや売上を伸ばすだけではなく、時には商品やサービスの開発にも関与して、企業のあり方そのものを成長させることを言います。

つまり、グロースハッカーはエンジニアリング領域・マーケティング領域の両方を兼ねた役割を担っているのです。

2. グロースハックではサービス自体に「自ら成長する仕組み」を入れる

グロースハックでは、従来のマーケティング手法だけではなく、ユーザーが使用することで存在や売上が広がっていく仕組みを採用しています。

従来のWebマーケティングの現場では、GoogleやYahoo!などの検索サイトやポータルサイト広告を出稿したり、SEOやアクセス分析などでアクセスを集めていました。

一方、グロースハックでは、*ユーザーのリファラル(紹介やレビュー)によって、サービスが拡散するような「仕組み」*を取り入れています。

例えば、FacebookやInstagramでは、人物が写っている写真を投稿するとタグ付けできる機能があります。タグを付けることで、普段Facebookを開かない人にも通知が届き、使用を促します。

また、Dropboxでは、友人・知人に紹介することで容量を増やせます。広告を打つことなく、ユーザー自身の行動でサービスを拡散することが可能なのです。

グロースハックにおけるモニタリングでは、*AAARR(アー)*というフレームワークがあります。このAAARRモデルは、アメリカのベンチャーキャピタル500 Startups社のデイヴィッド・マククルー氏が提唱したフレームワークで、「①獲得→②活性化→③継続→④紹介→⑤収益」の5つに分けて紹介していく手法です。

3. グロースハックは「ローコスト・ハイリターン」

2.jpg

グロースハックでは可能な限りお金を使わずに成長する全体の設計図を構築するスキルが必要です。

まず、UXデザインの観点では、プロダクトを作成してローンチする前に、グロースハッカーによってペルソナ(想定するユーザーの具体的な人物像)を作り、カスタマージャーニーマップ(ユーザーがどんな行動を起こすかを時系列で把握した分析図)を構築し、常に改善していきます。

また、グロースハッカーは、UXデザインに関して仮説を立て、それを実証します。例えば、申込ボタンの色や大きさに関して、赤色にしたらコンバージョン率(成約率)が1.5倍に増えるという仮説を立て、検証します。検証には、Google アナリティクスやGoogle オプティマイズなどの無料分析ツールを使います。

そして、グロースハッカーには技術的な知識も要求されます。何が技術的に実現可能なのか、どういう改良・改善が低コストで高いリターンを得られるのかを見積もり、エンジニアに指示を与えていきます。

4. グロースハックは「長期的観測」が必要

「ローコスト」というのは、「広告費をかけない」ことではありません。

UBERでは以前、友人にサービスを紹介すると、紹介者と友人に4000円の利用特典をプレゼントしたことがありました。この大胆なキャンペーンの背景には、「顧客一人あたりが生涯に使う価値(=LTV)」のほうが「顧客一人あたりを獲得する単価(=CPA)」を上回るというデータがあるからです。一般的に、グロースハックの成功をはかる目安の一つに「CPA☓3≦LTV」というものが存在します。

つまり、この基準に近づいていれば、「割り引いた費用」というのは大きな問題ではなくなります。「ローコスト」=「広告費をかけない」ということは一つの要素に過ぎず、グロースハックにおいては長期的に見た「費用対効果」も重要視されるのです。

また、プロダクトを作る前に、メールアドレスの登録者だけにベータ版を公開したり、先行してサインアップ(利用者登録)をするティザーサイトを作るというのも、「長期的な戦略」の一つと言えるでしょう。

スマートフォン向けのメールアプリMailboxは、ティザーサイトでデモビデオを閲覧できるようにして、わずか6週間で100万サインアップを集めました。

Facebookも黎明期にアメリカの大学内でしか使えなかった頃、ティザーサイトを立ち上げ、全生徒の20%のメールアドレスが集まるまでサービスのローンチを待っていました。

5. グロースハックは分析が超重要

3.jpg

グロースハックでは、従来のWebマーケティング以上に分析に大きな時間をかけていきます。

例えば、従来のWebマーケティングでは、流入はURLを直接打ち込んで訪問したか、あるいは検索なのか、検索キーワードは何だったのか、それぞれのページビューはどれくらいなのか、などを分析の対象としていました。グロースハックではそれに加えて、「コホート分析」や「ファネル分析」など、全体像を把握した分析を行っていきます。

「コホート分析」とは、ユーザーを一定の条件や属性によってグループに分け、時間の経過にともなってグループごとにどんな行動の変化があるのかを分析する手法です。コホートとは、もともと古代ローマの軍団を10に分けた「分団」が由来で、ある属性に属する集団のことをいいます。

例えば、季節ごとにキャンペーンを実施しているホームページでは、サイトの定着率を春夏秋冬と季節ごとに追いかけていきます。サイトへの定着率を1ヵ月後、2ヵ月後、3ヵ月後……と追いかけていくと、「夏のキャンペーンでは初回は購買額が高いけれど、3ヵ月間で見ると冬のほうがたくさん買ってくれる。その理由は……」と深く分析していくことができるのです。

一方、「ファネル分析」は、顧客獲得から収益までの流れの中で、どこに問題があるかを分析する手法です。ファネルとは「じょうご」の意味で、ユーザーがホームページを訪問してからコンバージョンに至るまでにどこで離脱してしまうのか(他のサイトに飛んで行ったり、ブラウザを消したりしてしまうのか)、そのホームページの問題点を可視化することが可能です。

例えば、先ほど挙げた季節ごとに実施しているキャンペーンページを再び例に挙げてみましょう。

サイトの訪問者のうち、商品検索ページに遷移するのは87%、そのうち商品詳細ページに遷移するのがたったの15%だという場合は、商品検索ページに問題があることがわかります。また、買い物かごに入れた人が購入手続きするのに30%しかないということであれば、手続きが煩雑である可能性もあります。そうした分析をもとに、ボトルネックを特定し改善を行っていきます。

グロースハックの成功事例

Twitter

有名なグロースハックの事例の一つです。

ユーザー行動のアクセス解析により、Twitterの継続ユーザーは、平均5~7人をフォローしているということがわかりました。4人以下しかフォローしていない人は利用が継続しないのです。この結果からTwitter社は、ある程度ユーザーをフォローしてもらわなければ、Twitterの楽しさを理解してもらえないのではないかと考えました。

そこで出来上がったのが、新規ユーザー登録の際にオススメのユーザーを表示しフォローしてもらう施策です。この改善施策の実施後には、アクティブユーザー数を大きく増加させ、利用継続率も向上できました。

徹底的な分析のもと、継続的な成長が期待できる仕組みを構築したグロースハックのお手本とも言える事例でしょう。

Airbnb

今では多くの人が知っているAirbnbもグロースハックの成功例です。

Airbnbは、空き部屋を誰かに貸したい人と、宿泊する部屋を必要としている人とのマッチングサービスであり、世界中で利用されています。近年では「民泊」という言葉はすっかりおなじみですが、サービス開始当初はなかなか利用者が増えずに苦戦していました。

Airbnbは数々のグロースハックのもと爆発的な成長を遂げたのですが、中でも有名なものは、Craigslist(クレイグスリスト)というコミュニティサイトと連携させる手法です。すでに多くのユーザーを抱えるCraigslistは、ローカルの物件情報が集まっているWebサイトのため、Airbnbの宿泊先リストをCraigslistにも自動的に反映する仕組みを構築しました。

この施策は成功し大きなPR効果を生むようになったのです。エンジニアによる技術力がプロモーションを成功に導き、エンジニアの人件費以外に広告などのコストをかけずにユーザー数を増加させたところがポイントでしょう。余計なコストをかけないグロースハックらしい戦略事例です。

Spotify

スウェーデンの企業であるスポティファイ・テクノロジーが運営する音楽ストリーミングサービスです。4000万曲を超える音楽を月額料金制で提供しているものの、機能制限がある無料プランもあわせて提供することで利用者を伸ばしています。日本法人を設立し、近年ではテレビCMが放送されるほど馴染み深いサービスになりつつあります。

Spotifyのグロースハックとして注目したいところは、Facebookとの連携でしょう。Spotifyの利用登録をする際、Facebookのアカウントを持っていれば登録がスムーズになるだけではなく、Facebookのタイムライン上でユーザーが聴いている曲がわかるようになるなど、Facebookでつながっている人に対してSpotifyが認知される仕組みをつくったのです。

また、Facebookの友達がSpotifyに登録した際にSpotifyに表示するよう設定されました。単なるAPIの統合ではなく、音楽という芸術文化が根づいており、SNSによる情報拡散がスタンダードになった背景のもと、ユーザー心理をしっかりと捉えているからこそ、グロースハックが成り立ったと考えます。

Hotmail

1990年代の古い事例ですが、無料メールサービスで有名なHotmailは、グロースハックで多くのユーザーを獲得しています。その施策は、利用者のメール署名欄下のフッター部分を通じて無料でメールアカウントを開設するようにメール受信者に働きかける、というシンプルなものです。

インターネットユーザーがまだ少なかった時代に、スタートから間もなかったサービスが、1200万人ものユーザーを獲得する実績を作り上げました。広告費を費やすことなく、自社サービス内での工夫が強力な広告として機能しました。サービスを飛躍的に成長させた、インパクトのある事例です。

「グロースハック」の視点を持とう

新しくサービスを立ち上げる上で重要となるのが、*企画やマーケティング、Webの技術などに精通している「グロースハッカー」*です。SEOコンテンツマーケティングに力を入れているけれど、思っているよりも収益が伸びていかない、という方は、ぜひ「グロースハック」の視点を取り入れてみてはいかがでしょうか。

今回紹介した5つのポイントの中で一つでも活用できそうなものがあれば、ぜひ実践してみてください。

グロースハックの他の事例はこちら

会員獲得を目的としたグロースハック事例6選

会員獲得を目的としたグロースハック事例6選

会員獲得を目的としたグロースハック事例記事をまとめました。会員制のサービスを立ち上げたものの会員数が伸びないとお悩みのWeb担当者様は、是非こちらの事例を参考にしてみてください。