マーケティング職に関わる方のみならず、経営者層、エグゼクティブ層にとってもコトラー教授の理論がバイブルとなっている方は少なくありません。

特に21世紀以降はマーケティング理論におけるアップデートが繰り返されており、時代のトレンドを押さえつつ、素早い情報のキャッチアップが求められています。

今回はコトラーマーケティングの基礎となる「マーケティング3.0」に至るまでの流れをおさらいし、現代のトレンドである「マーケティング4.0」について一緒に学んでいきましょう。

コトラーの功績とは?

経営学者であるフィリップ・コトラーは、これまで数多くのマーケティング理論を発表し、様々な研究機関で功績を残してきました。主要な学術誌で発表した論文は100以上にのぼり、多数の著書を出版していることから「マーケティング界の第一人者」と呼ばれています。コトラーが定義したものとして、以下の代表的な経営学用語があります。

『マーケティング・マネジメント』

マーケティングの目標達成における管理方法を生み出したのもコトラーです。企業がマーケティングを行う上での予算計画、必要な情報システムの整備、組織づくりなどを行う上での仕組みのことを指し、これらを管理することで企業の成長につながるよう設計がなされています。また、コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメントにおいて、この用語を踏まえての体系的なマーケティングの説明がなされています。

STP分析

マーケティング戦略の重要なフレームワークであるSTP分析もコトラーが提唱した概念です。STPは「セグメンテーション」、「ターゲティング」、「ポジショニング」の頭文字のアルファベットを繋げたものを指します。
市場の見極め、ターゲットの明確化、ライバルとの市場における位置関係の理解の際に有用な概念です。

STPとは - Webマーケティング用語|ferret [フェレット]

コトラーが提唱してきたマーケティング概念の変遷

アメリカ・マーケティング協会(AMA)が示した「マーケティング」の定義としては、以下のように示されています。

マーケティングとは、消費者、顧客、パートナー、および社会全体にとって価値のある提供物を創造、伝達、流通、交換するための活動、一連の精度、およびプロセスをいう」

2007年に発表された上記の定義では、マーケティングが企業と消費者間の当事者のみならず、社会性も広く意識したものであると見なされています。マーケティング4.0に至るまでの流れは、都度アップデートを繰り返しています。これまで「1.0 → 2.0 → 3.0 → 4.0」と更新を繰り返し、20世紀以降のマーケティングのトレンドを定義し続けてきました。

また、コトラーのマーケティング理論を理解する際に、コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則 を紐解く必要があります。

今回の記事では、主にこの本の内容を軸に、それぞれのマーケティング段階を定義します。

マーケティング1.0:製品中心の考え方(製品中心)

製品中心のマーケティングを指します。産業革命をキッカケに大量生産・大量消費が可能となったことから、製品管理に重きを置いた概念でした。

1950年代には「マーケティング・ミックス」という言葉が生まれ、マーケティングにおいては複数の手段を組み合わせた戦略を計画し、実施する認識が広まりました。
その後、1960年代には「4P分析」のフレームワークが普及し、「Product(製品)」「Price(価格)」「Promotion(プロモーション)」「Place(流通)」の枠組みでマーケティングコンセプトを策定し、当時のアメリカの製造業部門では欠かせない戦略として機能していました。

分かってないと戦略は立てられない!マーケティングミックス「4P」「4C」の意味と検討ポイント|ferret [フェレット]

代表的な事例としては、しばしばフォード・モーター社の「T型フォード」が取り上げられます。この製品は単一のデザイン・車種のみを販売し、良い商品を大量に作ってマス向けに広告を打てば成功するという象徴的な存在でした。創業者であるヘンリー・フォードの以下の言葉にも、その当時の勢いを感じさせるものがあります。

「A customer can have a car painted any color he wants as long as it’s black」
訳:T型フォードを買う人はどの色でも選べる。その色が黒である限り。

マーケティング2.0:消費者中心の考え方(消費者志向)

消費者にフォーカスしたマーケティングを指します。1970年代の石油ショックにおけるスタグフレーションをキッカケとし、消費者の買い控えが起こったことにから、この概念が生まれました。従来行われていた戦術的な性格のマーケティング活動が見直され、「顧客」に焦点を当てる戦略的な手法が採用されました。その戦略を「STPマーケティング」と呼び、他社製品との「差別化」が図られる流れが生じました。

STPとは - Webマーケティング用語|ferret [フェレット]

これ以降、4Pの確立よりも「セグメンテーション(Segmentation)」「ターゲティング(Targeting)」「ポジショニング(Positioning)」の3要素の確立が一貫して重視されるようになりました。

また、その後パーソナル・コンピューターが普及することによって情報技術が発達し、この傾向に拍車がかかりました。かつての機能的な充実のみならず、消費者の「感情」に訴えかけるマーケティングが主流となりました。

マーケティング3.0:人間中心の考え方(価値主導)

「世界をよりよい場所にすること」に焦点を当てた価値主導のマーケティングを指します。コトラーが「ニューウェーブの技術」と定義したソーシャル・メディアの台頭により、マーケティング3.0は生まれました。

企業は従来から、「差別化」を意識したマーケティングを行ってきたため、21世紀初頭にはその状態の過渡期を迎えつつありました。

この概念では、従来「消費者(Consumer)」と呼ばれていた人々が「生産消費者(Prosumer)」へと変わることを可能としました。なお、コトラーはソーシャル・メディアを二つの大きなカテゴリーに分類し、それぞれの特徴を記しています。

表現型ソーシャル・メディア

FacebookやTwitter、YouTube、ブログなどのメディアを指します。消費者が自分の意見や経験によって他の消費者に影響を与えることが簡単にできるようになり、こうした「クチコミ」を生かしたマーケティング施策を行う企業も出てきました。ソーシャル・メディアの低コストで情報発信ができる特性に目をつけた企業は、テキストマイニングソフトなどを用いて市場の声を分析するようになりました。

協働型ソーシャル・メディア

百科事典の「ウィキペディア」や、クチコミグルメサイトの「食べログ」などがこれに当てはまります。開かれたプラットフォームで参加者が自由に編集作業を行い、集合知の力を最大限に活かしたメディアは、マーケティング担当者のこれまでの動きを一変させました。

マーケティングにおいて市場の声に耳を傾けざるをえなくなり、消費者と共に製品・サービスの価値創造を行うようになりました。こうした概念を「共創(Co-Creation)」と呼び、マーケターは消費者の精神性を無視できない時代へと変化したのです。

マーケティング4.0:自己実現の考え方(自己実現)

マズローの「欲求五段階説」における自己実現理論を元にした概念です。欲求5段階説において、自己実現欲求は第5段階に位置しており、個々人が「あるべき自分」になりたいと願う欲求のことを指します。

マズローが晩年「この階層は逆だったかもしれない」と漏らしたことをコトラーは引用し、人間はすでに「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」までの段階は既に満たされていると唱えています。そのため、「自己実現」の欲求こそが人間が本来満たすべき欲求であり、現在のマーケティング施策も「自己実現」に焦点を当てるべきだと提言しています。

マーケティングの基本は心理学にあり! マーケ担当者なら絶対に抑えておきたい「マズローの欲求5段階説」とは?|ferret [フェレット]

また、マーケティング4.0が極めて短期間にアップデートされた理由としては、コトラー曰く、「消費者がこれまで購買時に発生していた『買うor買わない』の判断に変化が起こったこと」が所以だそうです。

商品を入手した後も個々人で独自にカスタマイズをし、購買後のプロセスまでもを加味する傾向を無視できなくなったため、マーケティング3.0の発表から10年経たずにマーケティング4.0が発表されたのです。

参照
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー:マーケティング4.0の時代に、日本企業は何をすべきか

マーケティング4.0時代の先行事例

レッドブル(Red Bull)

オーストリアのRed Bull GmbH社が販売する清涼飲料水「レッドブル」は、押し売りの形でマーケティングを行わず、スポーツイベントやミュージックフェスなどのスポンサードを積極的に行い、アクティビティをサポートする存在として商品をPRしています。

また、既存のイベントのみをサポートするだけでなく、自分たちで新たにプロジェクトを立ち上げ、個々人の夢や野望を叶えるプロセスも積極的に支援しています。

例として、2016年4月には50カ国以上から165の学生チームが集まり、レッドブルを通貨としてヨーロッパ中を冒険する『Red Bull Can You Make It?』というイベントを行いました。
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このイベントには日本から3チームが参加し、個々人の想いを胸に旅を繰り広げながら、ひいてはレッドブルが世界に通用することを世界的に知らしめました。オンラインとオフラインの狭間を取っ払い、「参加者と商品が共に世界にインパクトを与えていく過程」が多くの共感を呼びました。

このように、レッドブルは「ファン」という枠を超えた熱狂的な推奨者「アンバサダー」を積極的に巻き込み、「共創」のカギとなるメンバーが商品の認知拡大に大きく貢献しているのです。

まとめ

コトラーのマーケティング理論は、マーケターなら必ず押さえておくべき概念やフレームワークに溢れています。しかし、大切なのは小手先のスキルではなく、マーケター自身が積極的に主体的にアクションを起こすことです。

現在4.0までアップデートが進んでいるものの、未だに1.0や2.0の状態に留まっている商品・サービスも少なくありません。

改めて自らのサービスのマーケティングを見直す上で、今回の記事を参考にしてみてはいかがでしょうか。