UX(ユーザーエクスペリエンス)の定義は時代が経過するにつれて広がっていっていますが、いつの時代でもその意味は*「ユーザー体験」*であり、ユーザー本位でサービスやプロダクトを考えるという根底にあるものは変わりません。

20年ほど前、Windows 97が出た頃の世界と比べれば、UXデザインについて考えなければならないことはたくさんあります。

そこで今回は、2018年に押さえておきたいUX上の17の予測をまとめました。

過去と比べて、これからのUXはどのようになるのでしょうか。あくまでも憶測の範囲が多いですが、読んでみて参考になる部分があれば幸いです。

参考:
今さら聞けない!UI/UXを確実に学ぶオススメの良スライド10選|ferret
UXデザインのことがよく分かる!TED動画厳選5選|ferret
  

2018年に押さえておきたいUX上の17の予測

1. コンテンツフォーカスな体験

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フラットデザインやミニマリズムといったWebデザイントレンドが興隆して久しいです。結局のところそれらが目指していたものは、見かけ上のシンプルさはもちろんですが、余計なものをそぎ落として、コンテンツに集中するためのデザインです。

絵画のような作品そのものの本質的な「美」を鑑賞するものとは違って、UXが重要になるデジタルプロダクトのデザインゴールは、ユーザーの全体的な使い勝手をよくすることです。「美的」な美しさが役に立つこともありますが、むしろ使い勝手のよい「洗練」された美しさのほうがUXデザインでは好まれます。

ブログプラットフォームのMediumは、見た目の拡張性はほとんどありませんが、テキストが見やすくなっており、よりコンテンツに集中できるデザインになっています。
  

2. 「節約的」なデザイン

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一昔前はヒーロー動画や音声を多用した「リッチな」Webサイトも多かったのですが、最近では「消費しやすい」フォーマットのホームページも多く登場しており、今後もこの流れは続くと考えられています。

例えば、ユーザーがホテルを予約したいと思って検索サイトにやってきたと想定しましょう。その時に期待されるのは、美的な美しさよりも、むしろ下記の要素ではないでしょうか。

・はっきりとした分かりやすいナビゲーション
・コンテクストが特定できる情報
・親切なガイド
・直線的なカスタマージャーニー
・予測可能な体験

多くのホテルの予約サイトを差し置いてAirbnbが使いやすいのは、時間を浪費してしまうデザインよりもはるかに「節約的」なデザインだからです。余計なものを置いていないという見た目の洗練さも評価できますが、それ以上にユーザーの目標を最短で叶えられるような設計になっています。
  

3. 余白の活用

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「余白」は「ホワイトスペース」「ネガティブスペース」と様々な名前で呼ばれています。余白の活用は特段新しい概念ではありませんが、モバイルブラウジングの増加によってより重要度が増してくるでしょう。

余白を上手く活用すれば、ユーザーがどこに注目すればいいのかがよくわかります。Evernoteの新しいレイアウトでは、左側のログインボタンが余白によって、よりはっきり・すっきりしているので、ページにアクセスした後、1秒足らずで必要なアクションが取れるようになるでしょう。
  

4. チャットボットの増産

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FacebookメッセンジャーやLINEなどを活用したチャットボットは、日本以上に英語圏では凄まじい勢いで勢力を拡大しており、チャットボットの導入によって売上を拡大した企業は後を絶ちません。

実際、Facebookメッセンジャーは、11月7日のアップデートリリースによって、ホームページとメッセンジャーのチャットボットの統合を行うことができるカスタマーチャットプラグインを発表しています。様々な競合がいる中で、英語圏を中心にチャットボットの拡大がますます増えていくでしょう。
  

5. パーソナリゼーションの拡張

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画像引用元:pexels.com

パーソナリゼーションの代名詞といえばAmazonですが、AIやアルゴリズムの発達でパーソナリゼーションの領域はますます拡大しています。

Spotifyでは、2017年6月1日以降、一生懸命聴きたい曲を探さなくとも、これまでの視聴履歴をもとにAIがプレイリストを作成してくれるDaily Mix機能が使えるようになりました。FinTechの世界では、ユーザーがいくつかの質問に答えるだけで分散投資を自動で行ってくれるロボアドバイザーが登場しました。

2018年には、こうしたユーザーの嗜好を学び取って提案するパーソナリゼーションは、より身近なものになるでしょう。日々のニュースからSNSの投稿画面まで、あなたへのオススメが表示されるようになります。
  

6. 共感覚フィードバック

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画像引用元:pexels.com

システムがユーザーに何かを知らせる場合、最初に視覚的に、次に警告音などをとおして聴覚的に、そしてスマートウォッチなどのウェアラブルデバイスは触感フィードバック(Haptic Feedback)を用いていました。

最近では、ScentTech(セントテック)と呼ばれる、匂いを発するデバイスの研究も盛んに行われています。VRデバイスを含めた様々なデバイスを着用していくと、視覚・聴覚・嗅覚・触覚に至るまで、様々なフィードバックが同時に行われ、ユーザー体験の深化(Deepening UX)が起こります。
こうしたフィードバックを、共感覚フィードバック(Synesthetic Feedback)と呼ぶことがあります。

VRデバイスが家庭用コンソールになるまでに時間がかかったのと同じように、匂いに関するデバイスの普及ももう少し時間がかかるかもしれませんが、2018年はより没入感のある体験ができるかもしれません。
  

7. プログレッシブスペクトラム

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細かい点かもしれませんが、長い間利用されていた「プログレッシブバー」は、これからは「プログレッシブスペクトラム」として見かけることが多くなるでしょう。

スペクトラム(Spectrum)とは、色彩デザインの中ではフルグラデーションの「色のバンド」のことを指します。プログレスバーは進行度合いを数値だったりバーのメモリで測っていたわけですが、プログレッシブスペクトラムは色で状況を伝えます。ちなみに、これは特段目新しいUXデザインの手法ではありません。

例えば、電池残量を知らせる際、残量が残っていれば「緑」、残量がなくなりそうなら「赤」と色をわけていました。しかし、スペクトラムの考え方では段階的に色をわけるのではなく、よりグラデーションを意識した色あいに変わります。様々なパーツがよりグラデーションを意識したデザインに変わっていくでしょう。
  

8. ウルトラモバイルファースト

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すでに全インターネットトラフィックの4分の3がモバイルであるという事実を考えれば、これまで以上にモバイルの重要性が高まってきています。

先ほど述べた「節約的」なデザインは、この流れとも一致します。モバイルユーザーは基本的に外出中にスマートフォンを操作することが圧倒的に多いので、必要な情報をザッピングしたり、素早い画面遷移をあえて望んでいます。そのことから、よりシンプルで、モバイルでもストレスなく操作できるように、これからのWebサイトは考えられていくでしょう。

また、モバイルブラウザアプリケーションもPC並みに進化していくでしょう。すでに多くのブラウザが「アド(広告)ブロック」「プライベートブラウジング」「クッキーの削除」など、もともとデスクトップ版ブラウザで利用可能だった機能を搭載しています。
  

9. データの再編成

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パーソナリゼーションに関連して、データの再編成(Disinformation Architecture)についても触れておきましょう。これには様々な定義がありますが、簡単にいえば、「情報がたくさんあり過ぎてユーザーは消費しきれないので、ユーザーに理解しやすいように並べ替えたりグループ化したりしてあげること」を意味します。

検索結果を表示する時に「価格順」「人気順」などで並べ替えを行うというテクニックは特段目新しいことではありません。しかし、単純に並べ替えるだけでユーザーの使いやすいようにはなっていないので、アルゴリズムが計算して最も利便性の高い形に並べ替えてくれるようになります。
  

10. VR体験の拡張

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画像引用元:pexels.com

現在はテレビゲームを中心に勢力を拡大しているVRデバイスですが、これからはさらに多くの分野で活用されていくでしょう。

2017年11月1日にパナソニックが公開し話題となったのが、Perfume「Everyday」のミュージックビデオです。こちらは、通常の映像と違って360度に対応しているので、様々な方向からミュージックビデオを楽しむことができます。

また、VRを活用してショーケースを作り、買い物に促進するようなアプリケーションを作る企業も増えるでしょう。Amazonは、AWSのサービスの1つにAmazon Sumerianと呼ばれるサービスをプレビューローンチしました。

これはプログラミングや3Dグラフィックの知識がなくとも、VR空間やAR空間を短時間で作成することができるアプリケーションです。ただ、実際にコマースプラットフォームでもこれらの技術を活用するのではないか、という噂も広がっています。
  

11. UXのオムニチャンネル化

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Google HomeやAmazon Echoが日本にも上陸したことで、IoTデバイスが再び盛り上がりを見せ始めています。そして、ユーザーはデバイスの違いを意識せずにプラットフォームの提供するユーザー体験をより楽しむことができるようになるでしょう。

外出先ではApple WatchでSiriに、自宅ではAmazon EchoでAlexaに「松田聖子の曲を流して」と言えば、「Spotifyで松田聖子の曲を再生します」と返答があり好きな曲を流してくれるようになります。こうしたシームレスなユーザー体験のことを、Adobeのあるデザイナーは*「UXオムニチャネル化」(Omnichannel UX)*と呼んでいます。

少なくとも2018年には、こうしたエコシステムをデザイナーが用意する必要はなくなりますが、ユーザーのタッチポイントを考えてUXデザインを行う必要はあるでしょう。
  

12. 人間的なデジタル体験

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私たちは日常の至るところでデジタル体験を経験していますが、2018年はより人間的な体験を求める年になりそうです。

Appleの新しいEmojiは、Face IDにより顔の表情を読み取って伝えることができるようになりました。Google Assistantは発した声の相手を聞きわけ、名前を付けてリクエストに応えてくれるようになります。自宅用のミニロボットは様々な感情表現を私たちに伝えてくれます。

ちなみに、FinTechはより透明性のある形が好まれるようになります。長期的に使っていく上でエンゲージメントを高めることが重要ですが、人間がラポール(信頼関係)を構築するのと同じように、デジタルプロダクトに対しても信頼関係を見る時代になっていきそうです。
  

13. 音声UI(VUI)とAX

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スマートスピーカー出現の予言として、スタートレックを引き合いに出すのが大好きな人がいます。実際、「コンピュータ、〇〇して」という形が現在に適用されているわけなので、スタートレックの世界が未来に現出した形だと言えます。

IT関連のコンサルティングファームGartnerによれば、2018年には人間とデバイスインタラクションの*30%*が音声ベースのシステムを使ったやりとりになるそうです。

2018年にはGUI(視覚のインターフェイス)とVUI(音声のインターフェイス)はまだ共存をしそうですが、東京オリンピックが開催されている頃にはどの家庭でも、誰に話しかけるでもなく「ねぇ、次の予定は?」と声を発する世界がやってきます。
  

14. 生体認証

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AppleのiPhone Xは顔識別を行い、同時にiPhone Xと頻繁に比べられるSamsungのGalaxy S8は虹彩認証を取り入れています。果たして次にやってくるのは……?

声紋認証にしろ、静脈認証にしろ、次に現れるのが何であれ、ユーザー自身の手間はますます省けるようになるでしょう。現在はアプリくらいでしか広がっていませんが、上手くいけばWebサイトでIDやパスワードを覚えなくとも、こうしたデバイスを通して簡単にログインできる日が来るかもしれません。
  

15. 身近なAR

Appleは、新しいiOSであるiOS11のリリースと同時に、ARアプリを簡単に開発できるAR Kitをリリースしています。GoogleやApple、FacebookやMicrosoftのおかげで次の数年でARについてももっと身近になるでしょう。

Googleは2017年1月のアップデートで、カメラでリアルタイムに翻訳を表示する機能を日本語にも拡大しました。
上に紹介したプロモーションビデオを観ると、Google翻訳がいかに便利であるかお分かりになるかと思います。
  

16. イミディエシーの時代

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2016年頃から*マイクロモーメント(Micromoment)*という言葉がUXデザインの世界で聞こえ始めました。マイクロモーメントとは、人々が「何かをしたい」と思い、反射的に目の前にあるデバイスで調べたり、購入したり、行動を起こしたりする瞬間のことをいいます。

スマートフォンの普及により、人々が何かをする時の行動のハードルは極端に下がりました。「後でやろう」よりは「今ちょっと調べてみよう」が多くなり、結果として*イミディエシー(即時性)*が高まりやすくなります。

メルカリチャンネル※2019年7月でサービス停止のためリンク削除のようなライブ配信で物を売ったり買ったりできるものは、購入までの時間的距離を極端にゼロに近付けるという意味で、イミディエシーの高いサービスです。スマホネイティブの世代は、よりイミディエシーに対して敏感になるため、こうしたサービスを如何にスピード感を持ってローンチできるかが、2018年のビジネスフィールドでは重要になりそうです。
  

17. 誰もがデザイナーになれる時代

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iPad ProにApple PencilがあればPCがなくともプロと同じ環境でイラストや動画を作ることができます。いや、もっと言えば、スマートフォン1つで作曲や写真編集ができてしまう時代がやってきています。

そうした意味では、一眼レフや高性能カメラを買わなくとも、インターネット上に自分の表現力を発信したり、個展を開いたりすることもできるかもしれません。ツールは十分に揃っているので、行動に移す人がフィーチャーされる時代になってくるでしょう。