昨今、「動画の時代」とも言われ、YouTubeをはじめとする動画プラットフォームでもSNS上でも、日頃から数多くの動画広告を目にするようになっています。このことはつまり、企業側が自社のマーケティング施策に動画を活用する場面が急増している、ということを意味します。

今回の記事ではマーケターに向けて、これから「動画マーケティング」に取り組む上での基本を解説し、その成功事例などもお伝えします。

動画マーケティング市場の最新動向

株式会社ジャストシステムでは、全国の17歳から69歳の男女1,100名を対象に「動画&動画広告月次定点調査」を毎月1回実施しています。

2019年の年間総括によると、10代の6割以上が「毎日、動画コンテンツを視聴」という事実が明らかになっています。動画プラットフォームは「YouTube」が引き続き1強であり、回答者の3割以上が「1日平均60分以上、動画コンテンツを視聴」していることも明らかになりました。「動画広告を最も見かける場」に関しても「YouTube」が強力なプラットフォームになっています。

また、「Instagram」においても、過去2年で動画広告を見る人の割合が増えており、特に10代による接触が多くなっています。なお、「Twitter」での動画広告には20代~30代による接触が多いようです。

また、SNS動画広告エンゲージメント率が上昇していることも明らかになりました。

つまり、今や動画広告とはスマホの普及、および動画プラットフォーム・SNSプラットフォームの拡大とともに一般消費者の生活の中に自然に溶け込んでおり、ユーザー側も自然に受け入れている様子が浮かび上がってきます。

参考:過去2年で、動画広告を見る人の割合が増えたのは「Instagram」|Marketing Reserch Camp

動画マーケティングとは?

それでは、「動画マーケティング」とは具体的にはどのような取り組みを指すのでしょうか。

例えば次のような事例も、「動画マーケティング」に当てはまります。

  • 自社サイトに、自社のサービス・製品を愛用者であるユーザーインタビュー動画を掲載
  • You Tubeにて、自社で仕入れを行っている農産物の生産者を紹介する動画を公開
  • 人材採用のために、業界を紹介する動画を自社サイト上や採用説明会で公開

しかし、「ただ綺麗な動画を作って、公開して終わり」ではありません。

  • 目的達成のための戦略立案
  • 目的を達成するための動画クリエイティブの企画制作
  • 動画を掲載するSNSの運用
  • 動画広告設計
  • 動画を公開するキャンペーンサイトの構築
  • 効果検証

つまり、「動画」を軸にした上記のようなマーケティング施策すべてが「動画マーケティング」の取り組みに当てはまります。

「動画マーケティング」のポイントは、動画企画〜制作〜公開〜効果検証のプロセスにおいて「PDCA」の考え方を取り入れることだと言えるでしょう。

参考:マーケティングコンサルティング - LOCUS(ローカス)

<目的別>動画マーケティングの種類とメリット

①商品・サービス紹介動画

動画は、画像やテキストよりも短時間でたくさんの情報を伝えることが可能です。そのため、自社の商品・サービスの特長を最大限に表現することができます。機能や仕組みが複雑な商品、Webサービスなどの無形商材であっても、表現手法が豊富な動画を使えば、分かりやすく、かつ魅力的に伝えることができます。

また、Web動画だけでなく、屋外サイネージや店頭POPなど、動画を配信できるオフラインメディアも増えており、「商品・サービス紹介動画」の展開にはこれらオフラインメディアも含めて検討すると良いでしょう。

②ブランディング動画

ブランドの理念やビジョン、世界観などを消費者に訴求する「ブランディング活動」においても動画の活用が有効です。
機能面や価格面での訴求を行う「商品・サービス紹介動画」とは異なり、ブランドへの共感や信頼感など、消費者との心理的なつながりを醸成していきます。

③アプリ紹介動画

アプリの持つ世界観などを視覚的に伝え、特徴の説明や操作案内といった目的にも動画が効果的です。

④ゲームプロモーション

ゲームには多くのキャラクターが登場し、ストーリーや操作説明などターゲットに訴求する内容が豊富にあります。情報が豊富であることは、テキストや画像による説明だと冗長になってしまいますが、動画なら逆に制作上のアドバンテージとなり、ゲームの世界観をより魅力的にターゲットに伝えることができます。

⑤アニメーション動画

Webサービス、SaaSなど無形かつ複雑なサービスでは、自社サービスの魅力・特長をターゲットに伝える場面で苦労することもあります。見込み顧客と1対1で話せば伝えられるが、工数や時間には限りがある、不特定多数の人に向けて効果的に伝えたい。そんなときにはアニメーション動画が分かりやすく伝えることをアシストしてくれます。

⑥会社案内・施設案内

経営理念など大局的な説明はテキストや画像だけではなかなか正しく伝わりにくいもの。*情報伝達力の高い動画なら、ステークホルダーに正しく伝えることができます。*また、病院や工場、介護施設、研究所など外部からは見学しづらい場も、動画化することで外部にその様子を視覚・音声を交えて届けることが可能になり、信頼感・安心感の向上も期待できます。

⑦HowTo・マニュアル

商品の使い方などを分かりやすく伝えるHowTo動画やマニュアル動画は、BtoCBtoBを問わず、顧客に対して提供する商品・サービスの価値を向上させてくれます。

⑧広報・株主・投資家向け動画

企業の広報活動においても動画の活用が増えています。実際の活動内容を実写映像で紹介するなど、動画のメリットが十分に活かせる分野です。近年は、プレスリリース配信サービスでも動画を添付できるものが増加。新商品リリースなどに動画をプラスすることで注目度も高まります。

IR(株主・投資家向け)領域でも動画であれば財務情報を分かりやすく正確に伝えることが可能です。経営方針や活動成果も動画を通して伝えることで、株主や投資家の理解・信頼が深まります。

⑨人材採用

近年、人材採用に動画を活用する企業が増えています。一般消費者に対して認知度の低いBtoB企業も、動画広告を活用して企業の魅力を発信することで、応募者数の増加を期待できます。反対に、ブランドイメージだけで毎年膨大な応募者数がある大企業は、求める社員像や、現場のリアルな一面も動画の中でしっかりと見せることで、ミスマッチを軽減することにもつながります。

⑩学校紹介

大学・専門学校紹介などに動画を活用する学校も急増しています。
日常的に動画を視聴している若い学生にアプローチする上で、動画は非常にマッチするコミュニケーション手段です。学校理念、カリキュラム、キャンパスの様子なども、動画にすることで分かりやすくなり、志望動機の形成に寄与します。

参考:映像・動画の活用用途 - LOCUS(ローカス)

<媒体別>動画マーケティングを展開する媒体の種類とメリット

①YouTube 

YouTubeは2019年時点で30代・40代が最も頻繁に使っているSNSだと言われています。なおかつ、商品購入の高い動機づけになるプラットフォームになっている、という調査結果も。

よって、商品紹介動画やアプリ紹介動画、ゲーム紹介動画などはYou Tubeに掲載するのが効果的だと言えそうです。なお、YouTubeに動画を掲載するというのは「YouTube広告を出稿する」場合と、「自社でYouTubeチャンネルを開設する」の2パターンが考えられます。

見てほしい潜在層に確実に情報を届けるという観点では、消費者の興味・関心・年代・居住地域などでターゲティング設定ができる「YouTube広告」がより有効でしょう。

②Instagram 

Instagramのタイムライン、およびストーリーズには、最長120秒までの動画広告を掲載することができます。

Instagramの場合、利用を通して商品の認知・購入に関して影響を受けやすい年代は10代〜20代であり、YouTubeよりも若年層となっています。動画マーケティングで若年層に訴求したい場合には、Instagramがより有効でしょう。

③Facebook

Facebookにも動画を掲載することができ、動画広告も出稿できます。動画広告はInstagram広告同様、タイムラインおよびストーリーズに掲載できます。最新動向ではユーザー離れがやや進んでおり、40代〜60代の利用者層が多くなっています。そのような年齢層にリーチしたい場合には有効だと言えそうです。

④Twitter 

Twitterにも動画を掲載することができ、広告としての出稿も可能です。
ユーザー層は20代〜40代中心です。日本ではTwitterというプラットフォームは堅実な人気を誇っており、LINEに次ぐ利用率の高さだと言われています。

⑤TikTok 

TikTokは短編動画共有プラットフォームで、日本ではまだ利用者数が少ないですが、10代を中心とした若年層を中心に利用者が拡大中です。最近ではキリンやサントリー、ワイモバイルなど国内有名企業による参入も広がっており、動画マーケティングの新たな展開の場の一つになっています。

⑥自社サイトへの動画掲載

前項までは各種SNSプラットフォームへの動画掲載について述べてきましたが、一方で自社が運営するコーポレートサイトやオウンドメディアに動画を掲載することも「動画マーケティング」の一つです。

特に自社サイトやオウンドメディアに来訪してくれる人というのは、社名を検索して、つまり「指名して」わざわざ来てくれる「顕在層」です。

その人たちに自社について、あるいは取り扱い商品・サービスについて動画でわかりやすく訴求することは、次のアクション(購買・採用応募など)への強力な後押しになります。

⑦メールマガジンへの掲載

自社のメールマガジンに動画を掲載することも「動画マーケティング」の一例です。
従来の画像やテキストに比べて、視覚的にも分かりやすい情報によってアテンション(興味関心の獲得)を促す強力なコンテンツとなります。

また動画メールはユーザーがメールを開封しないと閲覧できません。反対に言えば「意図的にコンテンツを閲覧するユーザー」の集客に役立ちます。一般的なメールマガジンに比べてCVRが500%アップした例があるなど、動画広告に力を入れている企業を中心に国内でも導入が増えています。

SNS広告などで動画を使うことの多い企業にとっては、保有している動画コンテンツをリユースして動画メールに活用することも可能。また、大手プラットフォームを介して配信する動画広告と比べても自社で保有するハウスリストを使って配信するため、配信コストを安価に抑えたアプローチができるメリットもあります。

⑧屋外広告

屋外や店頭、展示会、採用説明会会場などでサイネージに動画を表示させることも、動画掲載媒体の一つです。

オフラインの場にわざわざ来店している、足を運んでいる人というのもまた「顕在層」です。

その人たちに動画で分かりやすく自社商品・サービスの訴求をすることは、次のアクションへの強力な後押しになります。

参考:
ユーザーの高い利用率 「YouTube」の強み | Live Commerce ブログ

【最新版】2020年8月更新。12のソーシャルメディア最新動向データまとめ

全世界で8億人が使っている!マーケター注目の「TikTok広告」を解説|ferret

CVR500%アップも。ようやく国内でも導入が始まった “動画メールマーケティング” の真価とは|ferret

動画マーケティングの課題

①自社の課題が分からず、何を動画にすれば良いのか分からない

「これからは動画マーケティングの時代だ!自社でも動画制作に取り組もう」と言っても、「自社では何を動画にするのがベストだろうか?」とクエスチョンマークが湧いてくる企業も多いのではないでしょうか。

まずは、自社が対外的に抱えている大きな課題を洗い出す事が必要です。

採用のミスマッチ、応募人数不足という課題を抱えているのならば、採用に関する動画を制作することが最優先です。無形商材を取り扱っていて、営業がお客様への説明に困る場面が多いのならば、商品・サービス説明動画を制作することが優先でしょう。

前述したとおり、「動画マーケティング」で企業が制作する動画には実に多岐にわたる種類があります。

まずは自社の課題を棚卸しすることから始めましょう。その際にどうしても自社内で解決できない場合には、動画マーケティングに強いコンサルテーション会社に依頼することも一つの手です。

②社内に動画制作の知見・リソースがない

現時点で、社内に動画制作の知見・リソースがない企業も多いかもしれません。

しかし、最近では無料の動画制作ソフトも多数の選択肢があるほか、有料ソフトでも数千円〜数万円ほどと比較的安価で、まったくの初心者でも簡単にスマホ撮影素材から動画編集ができるプロダクトも存在しています。

これから長期的に自社で動画マーケティングに取り組もうとするのなら、インハウスでできるところからチャレンジしてみるのも価値ある投資だと言えます。

動画制作ツール・ソフトを22選比較!目的を明確にしてから選ぼう

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昨今、ビジネスシーンにおいて動画制作に取り組む企業が急速に増加しています。その際に必要となるツールが「動画制作ソフト」ですが、数多くの製品が存在するため、目的を明確にしてからソフト選びをすることが肝要です。この記事ではビジネスパーソンに向けて、動画制作ツールの選び方のポイントについて、具体的なソフト22選を挙げつつお伝えします。

無料でここまでできる!動画制作のためのフリーソフト19選

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昨今、「動画の時代」と言われ、オンラインでもオフラインでも、SNS動画、YouTube動画、サイネージ動画など生活の中で「動画」と関わる場面が大きく増えました。その分、動画を制作・編集するニーズもまた、一般のビジネスパーソンの間でも高まりつつあると言ます。この記事では、動画制作フリーソフトの選び方のポイントについて、具体的なソフトウェア事例19選をご紹介しながらお伝えします。

初心者でも動画制作をマスター丨手順やポイントを分かりやすく解説

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Webマーケティングで注目を集めている動画広告。自社で制作したいと考えているマーケティング担当者の方に向けて、編集のコツや制作時に気をつけたいポイント、初心者におすすめの動画制作ツールに至るまで、分かりやすく解説しています。

③時間・コストがかかる

動画制作には、撮影から編集、書き出しといったプロセスを伴うため、制作に比較的時間がかかります。

編集のための有料ソフト、カメラや照明、スタビライザーといった撮影用機材なども導入すれば、そこも含めてある程度コストもかかります。

また、自社で対応できず制作会社に外注する場合にも、決して少なくはないコストと時間がかかってきます。

撮影から公開までに時間・コストがかかるという点は、現時点では動画マーケティング施策展開において避けられない課題であり、そこを踏まえて計画を立案する必要があります。

動画マーケティング成功事例

①株式会社ジャストシステム「スマイルゼミ」YouTube広告で新規顧客獲得

小中学生向けにタブレット教材を用いた通信教育サービス「スマイルゼミ」を提供する株式会社ジャストシステム。新規顧客の獲得を目的にマーケティングを実施してきましたが、さらなるユーザー拡大をめざして、新たなメディアの採用を検討していました。

そこで非常に多くのユーザーにリーチが可能なYouTube広告のTrueViewアクションを活用。動画広告の再生中、同時に自社サイトへのリンクを表示させる TrueView アクションで、サイト誘導を促進しました。

その結果、視聴者の関心度は約44%向上。同時に、獲得効率の高いディスプレイ広告の約 1.3 倍のCPAに抑えながら新規顧客の獲得に成功しました。

②株式会社エース カラコンECサイト「QUEEN EYES」YouTube広告で新規顧客獲得とブランディングに成功

カラーコンタクトレンズを販売するEC サイト「QUEEN EYES」を運営する株式会社エース。

顧客獲得を目的に、既に所有していた動画素材を活用し、YouTube視聴ユーザーに対して動画でアプローチできるTrueView動画広告の配信を実施しました。

動画内にウェブサイトへのリンクを貼り、ディスプレイ広告と比べてCPAを約40%削減することに成功。また視聴率も約20%と、新規顧客獲得と同時にブランディングにも貢献しました。

③SOMPOリスケアマネジメント YouTube広告で採用ブランディングに成功

生活習慣病の予防改善など、主に個人に対する健康指導を手掛けるSOMPOリスケアマネジメントのヘルスケア事業本部。フリーランスの保健師、看護師、管理栄養士が働いており、スタッフの求人に力を入れていました。

折込チラシやWeb求人広告広告を掲載していましたが、業態に対する認知不足から、応募者数が伸びていないことが課題になっていました。

そこで、サービスへの理解を促すため、シンプルでわかりやすい内容の動画を作成。欲しい人材に基づいたターゲットとエリアを設定し、YouTube広告を配信しました。

その結果、3日で約3万人の視聴者を獲得。大幅な認知拡大を達成したうえ、1リーチあたり 0.6 円と高い費用対効果を実現しました。

参考:成功事例 | Google 広告

課題、弱みを解決して次のステップへ進めるためのもの、という視点

動画マーケティング成功事例では、YouTube広告出稿の事例を挙げてきました。
広告として出稿するかしないかに関わらず、動画マーケティングに臨む前には必ず「自社が抱える最大の課題」を明らかにすることが肝要です。

動画マーケティングとは「動画で売上が上がる」「ブランドイメージが向上する」といった効果だけに留まらず、例えばこの記事で述べてきたように、「人材採用」などにも効果を発揮するものです。

「自社の課題、弱みを解決して次のステップへ進める」という、より大きな視点で自社に貢献してくれる、課題解決型のマーケティング手法であるとも言えるでしょう。動画マーケティングについてこのような視点を持ちながら、ぜひ、これからの施策展開に活かしてみましょう。