「旅するマーケター」西井敏恭が、マーケティング分野で注目の人物にインタビューをする連載企画。

第4回は、リスティング広告やFacebook広告などの運用型広告を手掛けるコンサルティング会社、アナグラム株式会社の代表取締役である阿部圭司氏にお話を伺いました。

ブログを始めたのは世の中にリスティング広告の情報がなかったから

**西井:**僕と阿部さんが知り合って、どのくらいになりますかね?

**阿部:**10年くらいでしょうか。

**西井:**阿部さんがアナグラムを設立して7年目ということですが、会社設立前は何されていたんでしたっけ?

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**阿部:**小さなWebコンサルティング会社にいました。ECに来ていない人をECに来てもらい、成果を上げるという仕事です。

サイト制作のディレクションから、広告SEO、解析、メルマガの執筆、ロジスティクス。ECに関わることであればすべてやっていました。

数年やったあと、フリーランスになりました。

**西井:**フリーランスの期間はどれくらいですか?

**阿部:**1年半くらいです。そのころ、書籍のお話をいただいて。
そのときに、プロフィールの肩書をどうしたらいいかを当時の編集担当の人に相談したら、他の人は「株式会社●●代表取締役」という感じが多いと言われて。

さすがに「フリーランス」で書籍の執筆もあれだとなと思って、じゃあ会社作ろうかという話になってと。
最初は会社にする意味とか、そういったものを理解していないまま進んでいきましたね。

当時はそもそも、人を雇う気はなかったですし、一人で何でもできたし、それが普通だと思ってました。
何よりも楽しかったですね。

**西井:**初めて出版されたのは、いつごろですか?

**阿部:**元々はグルメレビュアーなんかをやってまして、グルメ系の書籍に取り上げてもらったりしてましたが、実際に自身ですべてを書いた初めての書籍は、Google アナリティクスの書籍でした。確か今から6年くらい前ですね。

まだそういう情報を世の中に出している人がいなかったんですよ。
リスティング広告ブログを書きだしたのも、世の中にリスティング広告の情報がなかったから。自分が困っていたのがきっかけです。

**西井:**ブログと本はどちらが先ですか?

**阿部:**ブログです。

西井:「SEM-LABO」ですね。

**阿部:**その前に、いわゆる大手のブログツールを使っていて、そのときは3年近く毎日更新していました。

**西井:**今は毎日更新ではありませんよね。何か心境の変化などあったのでしょうか?

**阿部:**変わりました。ブログを書き始めたころは書くことに慣れていないので、まずは「毎日書く」ということを目標にやっていたんです。

癖をつけなければいけないと思って。僕は、どちらかというと怠惰な人間なので、習慣にすることを常に意識して動いてます。

「努力は続かない」というのが僕の持論です。
だからこそ、努力を習慣化させるのに時間をかけていくタイプなんです。

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**西井:**すごくわかりますね。僕の旅行記も一緒です。

僕は、2001年から2003年まで、ブログなどまだないときに旅行記を書いていたんですよ。
1年くらい旅行をしていると、おもしろいネタがあっても忘れてしまうんです。なので、メモ代わりに毎日書いていました。

僕は、旅行をしているときに本を出したいなとなんとなく思っていて。それで始めたんです。毎日書いているうちに文章の書き方もわかってきて。

今のマーケティングに通じるかどうかわかりませんが、リスティング広告の本を読んでわかったつもりでも、手を動かさないとほんとうのことはわからない。
毎日旅行記を書いているうちに、要領よく書けるようになってきたりするのに似ているのかなと思っていて。

僕はそういう体験があったので、今でもマーケティングにおいて新しいことが出てくると、今でもまずは自分でやるんですけど。

**阿部:**西井さんは本を出したくてとおっしゃったじゃないですか。

僕、ブログの最初の投稿で「必ず出版する」って書いてるんですよ。決意表明的な感じで。今でも鮮明に覚えてます。

**西井:**僕と阿部さん、似ているのかな(笑)。でも、旅行ライターになるつもりはありませんでした。

**阿部:**僕は、死ぬまでに書籍を書きたいなという漠然とした感じでしたね。

それで、実際にオファーがきたときにはほんとうにびっくりしました。

人前で話すことに慣れるために講演会を始めた

**西井:**今や阿部さんといえば、リスティング広告のトッププレイヤーですよね。

仕事が一番大事だとは思うんですが、講演会も数多く行っていますよね。それは情報発信の重要性を理解しているのかなと思っているのですが。

**阿部:**色んな意味で結果的に自分に戻ってくるんですよね。

僕は、仕事を取る目的で講演会をやったことが1度もないんですよ。話を聞きたいと言われるので行くという感じです。

実際に講演会の報酬金額についても事前に聞いたことがありません。
現地で話して、懇親会の席で「●●円です」といわれて、「あぁなんかすいません。ありがとうございます」みたいな。毎回こんな感じです。

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最初のころは、無料でやっていました。
一番初めの講演は、僕の師匠にあたる方に「やれ」と言われたので、断れなくてやったんです(笑)。

そのとき、すごく評価されたんですよ。でも、僕は緊張してて何を話したのか覚えてなくて。
その時にもっともっと話すスキルを上げたいと思ったんですけど、どうしていいかわからない。

さっきの話じゃないですけど、ブログと一緒でもっと慣れないとダメだと。

**西井:**阿部さんでも緊張するんですね(笑)

**阿部:**でも、講演の機会はそんな頻繁にあるものではない。なので、最初は自分で募集しました。

当時ブログを読んでくれている人が結構いましたので。そのとき、今は「攻城団」を運営している河野さんが「出前セミナー」というのをやっていたんです。交通費と宿泊代だけ出してくれれば全国で講演しますよ!というものなんですが。

ご本人に許可をいただいて同じことを始めたら、ちょうど本が出版された後だったということもありまして、一気に1年先まで講演のスケジュールが決まったんです。

それで、各地方の自治体などに行くようになりました。

正しいことを広めないのは、悪いことをしているのと同罪

**西井:**阿部さんは、リスティング広告のトッププレイヤーという個人から、会社経営者になりました。今、それがうまくいっているなと思っていて。

リスティング広告ってすごく属人的で、「あの会社」にという頼み方をしてもあまりうまくいかないことが多くて。「あの会社の●●さん」という頼み方をするとうまくいったりするんです。

そこをうまくアナグラムブランドに落とし込んでいる。
アナグラムに任せておけば大丈夫という感じになっていると思っていて。

そもそも、阿部さんがプレイヤーから経営者になったきっかけというのは何だったのですか?

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**阿部:**きっかけは師匠ですね。一人でやっていると、好きなブランドや好きな会社、相性のよい企業とだけやって、自分の収益も上がっていく。

そしてそのうち忙しくなって、新規の仕事が受けられなくなってくるんです。
それでもオーダーをたくさんいただいて、ちやほやされて、どんどん受けられなくなって。それはそれでいい気分になるでないですか。

基本怠惰な人間なので。はっきりいっていい気になっていたんです。

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そのときの僕は、パフォーマンスを誰よりも出した自負がありましたし、クライアントの業績もどんどん伸びていたので、満足していました。

そんな時に師匠にガツンと言われたんです。
「自分が正しいことをやっている自覚があるのなら、それを世の中のスタンダードにしない、広めようとしないのは、悪いことをやっているのと一緒なんだよ」と。

それでハッとして、今のままじゃダメだと180度思考が変わりましたね。

**西井:**それはいつごろですか?

**阿部:**会社を作って3年目くらいでした。そのときくらいでしょうか、テクノロジーエキスパートの田中や、今の取締役の竹内が入社してきました。

**西井:**それまではずっと一人でやっていたと。

**阿部:**実質一人ですね。一人でどこまでいけるのか?ということに勝手にトライしていました。

プロフィールに運用型広告をやっていたと書かないのがトレンド

**西井:**現在は、リスティング広告の現場にどれくらい入っているんですか?

**阿部:**実質的に僕が見ているのは2社ほどですね。それ以外はアドバイスをしたりすることはありますけど、基本的には僕が関与してません。

**西井:**僕も数社知っていますが、しっかり成果を出されてますよね。御社はほぼ100%リスティング広告なのですか?

**阿部:**運用型広告で100%ですね。主にリスティング広告とFacebook広告・Instagram広告、あとはTwitter広告やDSPなども取り扱ってます。

**西井:**運用型広告の人を育てるのって、すごく大変だと思うんですよね。実際みんな疲弊して辞めていきます。ほかに辞める理由ありますか?

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**阿部:**疲弊ですね(笑)。疲弊に次ぐ疲弊。

**西井:**辞めた人たちは違う業界に行きたがりますよね。

**阿部:**プロフィールに、運用型広告をやっていたと書かないのが流行りです(笑)。書いてしまうとオファーが来るので。「リスティング広告やってたよね?」って言われちゃうから。

**西井:**わかるわー(笑)。それってすごく変ですよね。

運用型広告はニーズが高いから、できる人欲しいんですよ。
でも、みんなプロフィールに書かないからわからない。

そういう人を見つけて、来てほしいとお願いしても、絶対嫌ですと言われる。
そんな状況で、アナグラムは運用型広告をやられていて、社員の評判もすこぶるよくて。

社員の方、みなさん帰るの早いですよね。

**阿部:**月初とかは忙しくなりますけど、基本的に他の広告代理店に比べて残業時間はかなり短いと思います。

そもそも、残業という概念がほとんどないんですよ。
案件を大量にさばく、みたいな概念もないですし、新規の案件が来た時に必ず問うのは「残業しないでも成果をだせるのか?」ということです。これはもう毎回ですね。

一気通貫型のシステムで密接にかかわらないと成果が出ない

**西井:**どうしたらマーケターを育てられるんですか?

**阿部:**育てたというよりは、彼ら、彼女らがほんとうにやりたいことを伸ばしているだけなんですよね。

大きい広告代理店さんが全部とは言わないですけど、今までのスタンダードな形は、いわゆる分業制でした。
それこそ運用はしているけれども、お客さんと会っていないとか、ポートフォリオの中のひとつだけ触っているとか、全体像が見えない中で動いていることが多いんです。

それは確かに広告代理店としての生産性はあるのかもしれないけれど、やっているほうに達成感がないんですよ。
何の仕事なのかわからずやっているという人が山ほどいます。

**西井:**分業はいろんな事業で取り入れられていますけれど、運用型広告の分業はどういう感じですか?

**阿部:**営業、運用、レポーティング、アカウント開設などですね。

アカウントの開設方法を知らないという人は、世の中にたくさんいます。大手になると、アカウント開設をするだけの人もいたりしますね。

**西井:**それは何の達成感もありませんね(笑)

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**阿部:**もうこうなってしまうとおもしろいとかおもしろくないとかじゃない。流れ作業のひとつなんですよね。

うちは、基本的に一気通貫。営業と運用をする者が一緒なので、全部自分の責任でやるんです。

クライアントの感情がダイレクトに来るので辛い部分も中にはありますが、感謝の気持ちもダイレクトに来るので、それで全部報われる。一番テンションが上がる時ですよね。

一番うれしくて辛いのは、売れすぎて在庫がないという状態ですね。在庫がないので広告を止めて欲しいと。それは辛いんですけど、やっぱりうれしいなと思います。

**西井:**大手の広告代理店などでは、ローテーションで次から次へと異動したりして、スキルがたまらないことが多いじゃないですか。
その反面、商品をもっと知らなければならないとか、矛盾している部分があるんです。

デジタルだけじゃないと思いますが、いろいろな業界でマーケティングをちゃんとやっていかないと、人が育ちませんよね。
御社では、リスティング広告とFacebook広告は同じ人がやるんですか? それとも担当を分けているんですか?

**阿部:**基本的には同じ人がやりますね。一応Facebook広告の責任者というのはいますので、フォローに入ったり、難易度の高いものに関してはFacebook広告チームが担当したりしてます。

**西井:**それで、リスティング広告の責任者もいると。その人たちは全体を見ているということですよね。そのなかで、営業、レポーティング、運用を一気通貫でやる。

それは、リスティング広告だとある程度一人でできる分量だからですか?

**阿部:**分量というよりは、そこは密接にかかわらないと成果が出ないんです。

要は、戦略と戦術を分けてしまうとダメで。思った人、考えた人が実行したほうがいいですし、早いです。
そもそも、戦略を立てる人はリテラシーがない場合があるんです。営業に特化した人になってしまうと、最新のテクノロジーやプロダクトを知らずに戦略を立ててしまう。

それは運用者にとっても不満ですけれど、その通りにやらないといけないという側面もあります。
とりあえずこのキーワードで検索連動型広告出しておいて!っていうやつですね。そういう案件は今でも山ほどあるので。

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**西井:**僕のところに、広告を出稿する会社から、どういう人を育てればいいかという相談が来るんです。どうやって育てればいいと思いますか?

**阿部:**いわゆるオールラウンダーにならないといけないと思うんですよね。
そのためには、いい広告代理店さんと付き合うことじゃないでしょうか。

うちの場合でも、相性がいい会社さんに支えてもらっているわけです。
逆に、うちとはあわないお客さんも山ほどいます。

僕らは、できるだけ戦略側から入らせていただきたいというのが本音で。
戦略も戦術も決まっていて、それを実行してくださいというのは苦手なんですよ。

そもそも20数名の会社ですから、人的リソースがないというのもありますが、考えなくていい仕事というのは僕らには不向きです。
考えさせてもらって対価いただいているので。

僕らにしかわからないデータというものがあって、それをクライアントさんにフィードバックする。
そのデータを元に彼らが次の案を持ってきてくれたりとか、僕らからも提案をしますし。
作業をするのではなく、伴走するという感じです。

担当者を昇進させるのがミッション

**西井:**マーケティング全体でその考え方は常に必要ですよね。

いわゆる広告主もそうだし、広告代理店側もそうだし。パートナーという考え方を持っていないと。

**阿部:**うちの取締役の口癖なんですが、「担当者を昇進させるのがミッション」と常に言っているんですよ。

アナグラムに仕事を頼むのって、相当エネルギーを使っているはずです。
もっと大きな会社が星の数ほどあるなかで、うちのような小さな会社に頼むということで、まず稟議を通すのが大変だと思うんです。

そこを覚悟して来ていただいている。
そういう方には徹底的に成果でお返ししますよと。

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**西井:**結局パートナーワークがないとダメですよね。広告代理店は広告代理店でパートナーの考え方がないから、ひどいところもあるじゃないですか。

Webの運用型広告は、広告費の何%が手数料というのが多いので、放置して手数料だけ取っていたり。
結局、グロスの金額が大きければよいという。

たとえば、今月の広告費が2000万円だったら、2000万円ギリギリまで使って、与えられたCPOを守るように見せかけて無駄な広告を配信してるパターンって。
消化するというんですかね。

**阿部:**その” 消化”という言葉がおかしいですよね。

**西井:**そういうことを平気でやっているところとは、パートナーになれませんよね。

僕はどっちかというとBtoCでやっている側ですけど、1万円の広告費ですら、この1万円のために何個売らなければならないのか、トマトだったら何百個売らなければならないのかって考えてしまう(笑)。

そう考えると、「10万円あと消化しておきますね」ってふざけんなってことですよ。
10万円のためにみんなどんだけ頑張ってるんだという話が正直ありますね。

**阿部:**消化というフレーズ、社内でも絶対出ないわけではないんですけど、出たときは全員で言った人間にものすごい形相で食ってかかりますね。

今日の最善は明日の最善ではない

**西井:**それ、会社の文化ですよね。ほかにもそういう文化ありますか?

**阿部:**ずっと言っているのは、今日のベストプラクティスは明日のベストプラクティスでもなくて、来年のベストプラクティスでもないということですね。
常に自分がやっていることを疑えと言っています。

特に僕らの仕事は、テクノロジーがあって、競合があって、さらに市場もあって常に動いています。
やはりプロダクトのサイクルが常に動いている中では、今日の最善は明日の最善ではない。
それは常に疑ってかからないといけない。

よく持ちかけられる相談で、「去年と同じことをやっているのにうまくいかない」というのがあるんですよ。
90%くらいはその話から入る。それは質問が間違っていて、「去年と同じことをやっているからうまくいかない」というのが正解です。
デバイス多様化していて、メディアが分散化されていたり、世の中のたくさんのことが動いているので、なぜ企業だけ立ち止まっているのかなということがすごくあります。

**西井:**僕もコンサルをしていて、よくあるのが、これ過去にやったけどうまくいかなかったみたいな話です。

だからやらないってなっていくと、選択肢がなくなるんですよね。

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**阿部:**それで思考停止してしまう。
そのときはダメだったかもしれないけれど、今だったらうまくいくかもしれないというのも多々あって。

積み重ねで成長していくはずなんですけど、結果的に固定概念になっちゃうことが多々あって。
たまたまうまくいかなかっただけなのに、ずっとそれをやらないという選択肢がもったいないと思うんです。

サイトのスマートフォン化なんかがわかりやすいですね。
昔、スマートフォン化をがっちりやってLPもバンバンやったけれど、全然来なかったから放置。

でも、今スマートフォン化をちゃんとれば、いくらでもくるじゃないですか。

**西井:**5年位前はスマートフォンの広告もなかなかうまくいかなかったじゃないですか。

それにいろいろな環境の問題もあり、ユーザーの問題もあったわけです。過去にスマートフォン化をやったけどうまくいかなかった。
じゃあ今やらないんですかって話じゃないですか。

**阿部:**自分たちだけじゃなくて、みんなが動いているので、ほんとにそれに合わせて最善のポートフォリオを組むというのが大事なんだと思います。

中の人との交流も、外の人との交流も大事

**西井:**阿部さんは、経営者となって少し現場から離れる様になったと思うのですが、相変わらずリスティング広告の知識が豊富ですよね。普段、どうしているんですか?

**阿部:**自分で現場を持っているということもありますけど、一番思っているのは、周りがすごいということですね。
社内の人材がすごいんですよ。

僕はセミナーを多くやる関係で、おそらく日本中の運用型広告プレイヤーと一番会っている人間だと思います。
そのなかで、一番すごい人が社内にいます。Facebook広告にしてもうちにいます。

これ、どこの会社でも言うかもしれませんけどね。
僕はほんとうにそう思っているので、その人に聞くのが一番早い。

**西井:**自分が教えるというよりも。

**阿部:**教えてもらうほうが圧倒的に多いですね。僕は経営8割、現場2割という感じなので。

**西井:**僕も、リスティング広告とかGoogle周り、Yahoo!周りがわからなかったら、すぐ阿部さんに質問するんですけど、すぐ回答くるし、すごいなー、常にトップを追いかけているなとずっと思ってたんですけどね、こっそり。会社のコミュニケーションってなんかしているんですか?

**阿部:**ご飯はよく食べに行きます。外の人より中の人と行くことが多いですね。単純に楽しい。

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**西井:**最近ちょっと感じることがあって。オイシックスの奥谷さんと結構会うんですが、ご飯を食べに行って話をしたら、やっぱりすごいわけですよ。
ああいう話をしてくれる人が社内にいるのってすごく大事なことなんです。

僕は仲がいいからご飯を食べに行ったりするんですけど、意外に社内の人はご飯に行かないし。
同じ社内にいるのに講演聞きに行ったりするみたいなんですけど、講演の話なんて一部でしかなくて。直接のほうがいろいろな話が聞けますよね。

そういうのがすごくもったいないなということに気付いて。そのくらい社外よりも社内の知見は大事ですよね。

**阿部:**うちは社内に寄り過ぎちゃっているかもしれません。
すごい人が中にいるので盲信してしまう部分は多少なりあります。

ほんとうに、参考になる話が聞ける外の人がそんなに多くないんです。
なので、中にばかり寄り過ぎてよくないかなという思いはあります。特に若い社員には。

外で飲みに行って、そこでしか出ない話っていっぱいあるじゃないですか。友だちにも会ったほうがいいですし。

**西井:**外に出て外を見て、もっと自分が成長して、それを中に戻していくということも大事だなと思うんですよ。

木曜日の午後は「建設的な批判」の時間

**阿部:**コミュニケーションが全部うまくいっているかというと、いろいろ問題はあるんですけど。

その改善の一環でもあるんですが、木曜日の午後は、実務から切り離すということをやっていて。

ひとつのアカウントで3、4人のチームを組んで、分析をみんなでやるんです。
その結果を短時間でフィードバックしています。

**西井:**分析をするのは、担当している人ではなく、違う人間がやるということですよね。

**阿部:**はい。他の目線で分析してもらいます。

短時間で分析してフィードバックする必要があるので、そうなると単純に3つくらいしか言えないわけです。
その3つを動かしたらどのくらいインパクトがあるのか。それを選定して言う。これを2年くらい続けています。

初心者が陥るのは重箱の隅をつつくような分析ですかね。
ビジネスインパクトがない分析結果にはなんの意味もないということを学んだりできます。

うちは、ほかの広告代理店さんに比べると、一人あたりのアカウントは圧倒的に少ないと思うんです。
仕事が深くなるといういい面もあるんですが、知見がたまらないという悪い面もあるんです。
なので、強制的に文化に組み込みました。

社内であれば上司や隣の人のアカウントを覗くというのは簡単そうなんですが、実際に自発的に見る人って10人に1人です。
だから、強制的に人のアカウントを見る文化を創ろうというのが発端ですね。

自社のデメリットを、木曜日の午後で補っているという感じです。

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**西井:**それ、全然違う業界でも応用できそうですね。

**阿部:**いけると思います。

ただ、これがなかなか他の会社では難しいかなと思うのが、経営陣や意思決定者がプレイヤーの気持ちを汲みとっていないと不可能だ、という点なんです。
実際にその時間は就業時間中に実務から切り離して行うので、その時間働いたほうがいいよねってなりかねません。

**西井:**そこに対して、僕はプレイヤーなので、あまり疑問を持たなかったなー。でも、そういう考え方もありますよね。

**阿部:**実際に、木曜日の午後の施策が機能しだすまでに結構時間がかかったんですよ。

始めたころは、みんな重箱の隅をつついてしまって、ギスギスするんですよね。
お前に言われたくないよとか、今日やろうと思ってたとか(笑)。

でもそうじゃないよねっていう文化を作るのが一番大変で。
外の人に指摘されるより、社内で指摘されたほうがいいじゃないですか。

なので、「建設的な批判」という言葉を作ったんですけど。
第三者に指摘されるよりも仲間に言われたほうが絶対得なんですよね。だからこそ、中だから言える文化を創ろうと。

フォトグラファー:三浦一紀

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