「2011年度にアメリカの小学校に入学した子供たちの65%は、大学卒業時には今は存在していない職業に就くだろう」

この言葉は、米国デューク大学の研究者であるキャシー・デビッドソン氏がNYタイムズ紙のインタビューで発言されたものです。

実際、20年前にはWebデザイナーという職業はまだ存在していませんでしたし、10年前にはスマートフォンのアプリケーションエンジニア、5年前にはデータサイエンティストという職業はありませんでした。

また、UIデザイナーやSEOマーケターなど、過去に存在した職業でも今ではほとんど見かけないものもあります。

世界中のテクノロジーが進化し、ニーズが多様化するにつれ、その職業に必要とされるスキルや役割が変わってきます
例えば、今までは1mmの採寸を合わせるのがWebデザイナーの仕事だったのが、これからはビジネスにデザインを活用したりコンバージョン率の上がるデザインを行う必要が出てくるのです。

10年前にはまだ今のように飛び交っていなかった「AI」や「暗号通貨」、「ドローン」などの分野でも、次々と新しい技術をビジネスに変える必要が出てきています。
今回は、様々なテック企業で求められている、新しい仕事の肩書と仕事内容について、ご紹介していきます。

今後、テック業界で求められる新しい職業とは?

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1. UXリサーチャー(Webサイトを回遊することでユーザー体験を改善する)

Webデザイナーという職業は、ここ数年でUIデザイナーやUXデザイナーというように役割が細分化されつつあります。
デザインはユーザー体験を最大化させる重要な役割を担っているという認識が徐々に広がっているからでしょう。

そのため、グロースハッカーという職業を新たに設けて実験と改良を繰り返すこともありました。
しかしながら、「A/Bテスト」などの実験の*「結果」(例えば「コンバージョン率」や「クリック数」「ページビュー数」)だけを見るのではなく、「プロセス」*も含めて改良する余地があると感じているIT企業も増えています。

そこで求められているのが、*「UXリサーチャー」というポストです。
UXリサーチャーは、
「ウォークスルー」*と呼ばれる実際のWebサイトの回遊行為を行うことにより、重要な発見をチームと共有し、デジタル体験やサービス体験を改善する提案をします。
また、ユーザーの購買体験から大きな問題提起を行い、仮説と検証を行なって、ユーザーディライトを感じてもらう最高のユーザー体験となるように、機能の改善やワークフローの改善を行います。

UXリサーチャーになるには、デザイン思考やデジタルマーケティングに精通していることももちろんですが、常日頃から疑問を持ち、自ら問題解決して、そのプロセスを評価する習慣が重要になります。
UXデザイナーとも協力し、表面的な結果の数値だけでなく、本当にユーザーが喜んでサービスを使っているのかという本質的な問題にアプローチする仕事です。

参考:
UXの先を見よう!新しいユーザー視点のサービス開発アプローチ「User Delight」とは?

2. VRXデザイナー(VRのユーザー体験を向上させる)

VRXとは、*バーチャルリアリティー体験(Virtual Reality Experience)*の略で、VRを通したユーザー体験という意味になります。

VRの世界では、重くて大きいヘッドセットをいかにコンパクトにするか、あるいは高画質でスムーズな映像配信をどのように実現するか、というハードウェア面での課題が山積しています。
それと同時にどのようにして「現実」と同じように見せてシームレスな体験を演出するか、というソフト面での課題も同時に解決しようとしています。

VRXデザイナーは、VRの「ソフト面」の課題解決に一役買います。

参考:
今だからこそ知っておきたい!VR・AR・MRの違いは?

3. マシーンラーニングサイエンティスト(AIのアルゴリズムを検証し、問題を抽出して改善する)

AmazonもAppleもGoogleもLINEもIBMも、どんな企業も次世代の会話型AIの開発に必死になっています。
その開発の根底を支える新しい職業が、*「マシーンラーニングサイエンティスト」*です。

この役割は、現状のアルゴリズムを検証して問題点を発見し、自動的に改善するための技術をモデリングし、問題を解決するためのポストです。
マシーンラーニングサイエンティストは、マシーンラーニングだけでなくディープラーニングや強化学習などについての専門的な知識を持ち、言語構造や発話についても一連の知識を持っていることが求められます。

参考:
そういうことだったのか!と思わずうなずく「機械学習」超入門

4. ドローンドライバー(ドローン専門のドライバー)

ドローンの技術は数年前に比べて飛躍的に進歩しています。
Amazonや米国セブンイレブンがドローンによる配達を行なったという記事も記憶に新しいですが、法的な整備と技術的な整備がしっかりと整えば、これらのテック系企業ではドローンの操縦を専門としたドライバーである*「ドローンドライバー」*の確保が急務となります。

ドローンドライバーに求められるのは、航空技術に関する知識を有していることや、ある程度の地形に関する知識です。
もちろん、GPSによるドローンの追跡や、ドローンに装備されているカメラによる操縦など、技術的な側面で操縦は比較的容易にはなるでしょう。

また、法的に免許を有することが求められれば、通常の配送ドライバーが運転免許を所持しているのと同じように、求人段階で免許を持っていることが条件となるか、採用後に企業が免許取得のサポートをすることが求められるでしょう。

参考:
ネットショップの未来を変える?AmazonPrimeAirで話題となったドローンの定義や課題点を解説

5. カスタマーサービスコンサルタント(CS改善専門のコンサルタント)

インターネットによってこれまで実現不可能だった複雑なビジネスを行うことが容易になった一方で、カスタマーのニーズも多様化しているため、それに応えるための体制づくりも重要になっています。
また、いい噂も悪い噂も、SNS上で簡単にシェアすることができる環境になってきたので、カスタマーサービスも含めてCX(カスタマーエクスペリエンス)を作る必要があります。

しかし、大量の顧客を抱えているにもかかわらず少数精鋭のベンチャー企業もテック業界には多数存在します。
そのような企業では、提供するプロダクトは素晴らしいものを作るのですが、良質なカスタマーサポートを構築することは後回しになりがちです。
カスタマーサービスコンサルタントはそうした状況をヒアリングし、少ないリソースでも事業に集中できるように問題発掘と改善案を提示します。

参考:
成長企業は知っている!CS(カスタマーサポート)はプロダクトを支える生命線

6. レキシカルエンジニア(会話型AIが収集した会話データを元にアルゴリズムを改善する)

高度なAI技術の発展により、VUI( 「Voice User Interface」の略。音声でデバイスを操作すること)を使った会話型AIの原型がある程度出来上がったと言っても過言ではないでしょう。

しかし、まだまだ言語を解析するのにいくらかのタイムラグがあるのは、サーバーの処理速度やインターネット回線の問題の他に、言語を解析するアルゴリズム自体の精度にも課題があります。

Google翻訳も、前回の大幅アップデートでかなり自然な言い回しで翻訳することができるようになりましたが、それでもまだ人間同士が自然に会話をするのとはまだまだ異なるものです。

マシーンラーニングによる自動化だけでなく、言語学者や言語の専門家によるアルゴリズムの強化が必要不可欠です。

レキシカルエンジニアは、その状況を打開するために求められている新たな職業です。
言語学とソフトウェア工学の両方に精通し、会話型AIが収集した実際の会話をもとにアルゴリズムの問題点を発見し、改善のためのプロセスを提案します。

参考:
2017年の定番になる?新しいタイプの抽象的UI「VUI」入門

7. エクスペリエンスコンダクター(ユーザーに様々な「体験」を提供する)

AirbnbやUberの登場で、スマホ1台で気軽に低価格で旅行に行くことができるようになりました。
日本に比べてUberの普及率が高い東南アジアをはじめとした地域では、Uberを副業的に使っているドライバーもいれば、専業として使っているドライバーも登場しています。

また、Airbnbで新しく始まった*「体験」(Experience)*というサービスでは、いちご狩りや陶芸など、通常ならパック旅行に含まれるようなレジャーを、誰でも気軽に体験できるようになりました。

空いている時間に、自分で値決めをして誰でも気軽に「体験」を提供することができるので、自らの強みを「体験」として売り出す専業のエクスペリエンスコンダクターが登場するようになるでしょう。

参考:
Airbnb、日本のトリップ・プラットフォームを拡張

8. クオリティアシュアランステクニシャン(モバイルアプリのUXを検証する)

iPhoneやAndroidにインストールするモバイルアプリケーションは、Webブラウザで閲覧するモバイルサイトとは違う形の価値を生み出しています。
そのため、AmazonもAirbnbのように、使いやすいモバイルサイトを有していながらも、洗練されたモバイルアプリは別に用意されていることも珍しくありません。

クオリティアシュアランステクニシャン(QAT)は、モバイルアプリケーションでも十分なUXを提供できるかどうか、さまざまな実機テストを通して*「品質保証」*を検証するための専門の技術家です。
QATは、単純に操作テストを行ってバグを発見するだけでなく、処理速度を計測したり重い負荷をかけてアプリが落ちないかを実機で確認し、根本的な問題を特定して各チームメンバーにレポーティングを行います。
ダウンロード、インストール、実機テスト、デジタルコンテンツの有効性まで、ブランドの品質ラインに到達しているかをリリース前に確認する重要な役職です。

参考:
Web担当者なら知っておきたい、スマホ画面チェックツール8選

9. ラーニングコーディネーター(社員に最新テクノロジーを学ぶ機会を提供する)

私たちは毎日さまざまな技術がアップデートされていく、激動の時代に生きています。
その中で、自動運転、ドローン、仮想通貨、AI…とそれぞれの担当者がキャッチアップすることも多く、どのように人材育成にリソースを割くのが効率がよいか分かりかねているテック企業も多いものです。

そこで、人事部(HR)に直接的に配置する形または単独で配置する形で、ラーニングコーディネーターという役割を採用する企業が増えています。
ラーニングコーディネーターは、日々の業務に追われるデザイナーやエンジニア、カスタマーサービスなどの横断した職業の人々に学習の機会を提供し、一人ひとりに合ったコーディネートを行います。

ある企業では、昼食を持ち寄ってお昼時間に部署を超えた、正規雇用・非正規雇用や職種にかかわらずに自由に参加できる勉強会を開催しています。

また、外部からも優秀なエンジニアやデザイナー、マーケターなどを複数人呼んで、自社の社員向けにトークセッションを行って、誰でも参加できるようにしています。
こうしたイベントの企画・立案・運営も、ラーニングコーディネーターが行います。

Amazonではコマース部門の社員がAlexa関連の勉強会に参加したり、MicrosoftではPC部門の社員がAzureの勉強会に参加したりと、分野を超えて幅広く展開している企業にとって重要な学習の機会を提供します。
また、こうした学習のフィードバックを受け、社内異動で別の職種に立候補する環境を整えることで、社員が離職するリスクを減らす役割もあります。
これにより、社員は自分の専門分野以外でも定期的に理解を深める機会につながるのです。

参考:
お金をかけずに独学でプログラミング学習を始める時のTODO&Tipsまとめ

まとめ

技術の進歩と多様化に伴い、ビジネスチャンスにつなげるための職種も次々と用意されています。
実際、これらの職業の多くは、数年前には存在していませんでした。
新しい職業だけに応募するのは億劫かもしれませんが、実際には企業も試行錯誤しながら採用していますので、挑戦してみたい仕事があれば挑んでみてもいいでしょう。