総務省が発表している「平成28年版 情報通信白書」によると、2016年の世界における年間アプリダウンロード回数は446億回にものぼり、2019年には560億回にまで増加すると予測されています。中でも、今後はアプリ市場を牽引してきたゲームアプリ以外のアプリ、すなわちビジネス向けのアプリやSNS関連のアプリが市場の中でシェアを伸ばしていくと予測されています。

そのため、Webサービスを展開している企業にとっても、今後、強力なマーケティングツールになる可能性を秘めたアプリには注目しておきたいところでしょう。

ですが、ビジネスにアプリを活用している事例は少なく、ゲームアプリを中心とする刹那的な開発が繰り返されてきたのも事実です。そんな中、アプリを使ってビジネスを成長させてきた企業は、どういったカスタマージャーニーを描く事でユーザーとのコミュニケーションを実現してきたのでしょうか。

今回は、App Annie(アップアニー)主催「Decode Tokyo」にて行われた、オイシックスドット大地株式会社 奥谷 孝司 氏、株式会社Origami 古見 幸生 氏、ヤマト運輸株式会社 中西 優 氏による「アプリマーケティングのカスタマージャーニー」をテーマにしたセッションの様子をお届けします。

参考:
総務省|平成28年版 情報通信白書|モバイル向けアプリ市場
  

登壇者プロフィール

オイシックスドット大地株式会社 執行役員 奥谷 孝司 氏

奥村氏プロフィール.jpg

1997年良品計画入社。3年の店舗経験の後、取引先の商社に2年出向し独駐在。家具、雑貨関連の商品開発や貿易業務に従事。帰国後、海外のプロダクトデザイナーとのコラボレーションを手掛ける「World MUJI企画」を運営。現在定番商品の「足なり直角靴下」を開発。10年WEB事業部長。アプリ「MUJI passport」のプロデュースで14年日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会の第2回WebグランプリのWeb人部門でWeb人大賞を受賞。2015年10月よりオイシックス株式会社(現オイシックスドット大地株式会社)入社。

引用:奥谷 孝司|アドテック東京 公式サイト
  

Oisix(オイシックス) 定期宅配おいしっくすくらぶアプリ

オイシックスアプリ.jpg

▼iOS
Oisix|App Store
Android
Oisix|Google Play

食品の定期宅配サービス「Oisix(オイシックス)」の会員サービス「おいしっくすくらぶ」公式アプリ。青果・精肉・乳製品などがアプリで注文・管理できる。配送日の変更もアプリ上で行う事ができ、ユーザーの都合のいい時間で受け取る事ができるのが特徴。

株式会社Origami マーケティングディレクター 古見 幸生 氏

古見氏プロフィール.jpg

1972年群馬県生まれ。大学卒業後、 AOLジャパンに参画。2004年、Google Japanへ29番目の社員として参加。Google Partnersの前身制度であるGoogle Advertising Professionalsの統括管理を行うなど、Google黎明期のサービス立ち上げに貢献。2013年にはアプリレビューメディアAppBankにて上級執行役員、関連子会社代表取締役となり、ビジネス基盤構築、新規事業開発を行い、同社東証マザーズ上場の原動力となる。2016年3月から現職。ショップと消費者双方へのマーケティング統括を行う。

引用:Yukio Furumi Profile|Wantedly
  

Origami

Origami___あなたとお店をつなぐ、スマホ決済。.png
https://origami.com/

▼iOS
Origami|App Store
Android
[Origami|Google Play]
(https://play.google.com/store/apps/details?id=co.origami.android&hl=ja):blank

QRコード型のスマホ決済サービス。Loft、日本交通、AOKIなど、全国約20,000店舗の加盟店で利用できる。消費者はスマートフォンに自分専用のお財布を持つ感覚で、ほかよりも便利で、お得な決済手段として活用できる。また、加盟店はオンライン、オフラインの区別なくダイレクトでパーソナルにお店とユーザーが直接つながれるため、ロイヤルカスタマー醸成などの販促支援をスムーズに行える仕組みとして活用できる。

  

ヤマト運輸株式会社 営業推進部 プロジェクトマネージャー 中西 優 氏

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1981年生まれ。大学卒業後、ヤマト運輸に入社。2013年からヤマト運輸本社にてEコマースを中心とした法人営業を担当。その後2015年から営業推進部で商品開発を担当。

  

クロネコヤマト公式アプリ

クロネコヤマト公式アプリ___ヤマト運輸.png
http://www.kuronekoyamato.co.jp/ytc/campaign/app2015/lp_001.html

▼iOS
クロネコヤマト公式アプリ|App Store
Android
[クロネコヤマト公式アプリGoogle Play]
(https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.co.kuronekoyamato.KuronekoyamatoOfficialApp&hl=ja):blank

ヤマト運輸による公式アプリ。アプリ上で宅配の配達日時の問い合わせが可能。クロネコメンバーズとIDを連携する事で、お届け予定の荷物の事前通知や受け取りの時間帯変更、受け取り場所の変更、再配達の依頼も簡単にできる。

  

モデレーター :App Annie Japan App Annie エバンジェリスト 向井 俊介 氏

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国内IT企業を経て、世界最大の企業情報、外資系ITリサーチ企業にて新規事業開発を担当し、現職。様々な業種を横断的に見つつ、経営者レベルとのリレーションを構築。ビジネス経験の大半を情報提供サービス業に従事してきた経験を活かし、App Annie Japanの事業開発を担っている。

引用元:
小売アプリ最前線 ~顧客エンゲージメントを引き出すアプリの特徴とは?~ |connpass
  

企業目線でのアプリ開発における生活者とのギャップ

向井氏:
ビジネスとしてアプリを作ると、生活者にとっていいと思われるコミュニケーションやインターフェイスを予測する企業の目線が入るかと思います。その上で、実際にアプリをリリースしてから生活者とのギャップに気付いた例はありますか?

また、アプリの設計をする時に、一番大事にしていたコンセプトはありますか?

奥谷 氏:
MUJI passport(注)では、Eコマースの要素を極力排除するという事を意識しました。売上の9割以上はあくまでも店舗なので、アプリを利用する事で店舗に行きたくなるように設計しています。

逆に予期せぬギャップとしては、「チェックイン」機能を使っているのが朝8時から10時といった通勤時間帯だった事です。

マクロ的に見ると、100人チェックインすると5人がその日中、それもチェックインから30分以内に買い物する傾向にありました。

こういうのがわかるとプッシュ通知したくなるのですが、忙しい通勤時間中の朝8時という事を考えるとそうもいきません。「無印のオススメ商品」が通知できたらユーザーは嫌になってしまうと思い、極力プッシュ通知は少なくして、なるべくお客さんに能動的に開いてもらうようにしています。

*お客さんがエンゲージメントしてくれるなら、買い物は年に3回でもいいんです。*だってアプリはメディアですから、メディアとしての価値が高ければ高いほどリテンションの力は大きくなります。

注釈:MUJI passport
MUJI passportは、無印良品の買い物アプリ。優待価格クーポンのほか、商品の検索機能や配送状況の確認機能など、店舗利用を前提としているのが特徴。店舗へ来店した際に「チェックイン」を行うと独自のポイントが貯まる。

参考:
MUJI passport|無印良品

向井 氏:
チェックイン後30分に買い物をするといったデータが見えてくると「Eコマースへの導線を設計した方がいいんじゃないか」という社内外の声がでてくると思うのですが、そういったものはなかったんでしょうか。

奥谷 氏:
無印良品の人はEコマースのプロではありませんから(笑)売上は店舗が上がった方がいいです。

向井 氏:
なるほど。Origamiでは最初のリリースからUIがかなり変わっていると思うんですが、それにはどういった背景があったんでしょうか。

古見 氏:
スマホ決済アプリの特性上、商品購入の瞬間だけアプリを起動して、支払いが終わったら、もう起動しないユーザーが多く現れるのではと予測していました。

ですが、アプリを今で言うとインスタグラムやピンタレストを流し読みしているような感覚で、アプリの店舗情報や画像を閲覧している行動がかなり見受けられます。

もともとOrigamiは「ソーシャルショッピング」を体現するサービスとしてスタートしています。その強みを活かし、自分が購入した事のあるお店や、位置情報に合わせて近くで利用できるお店の紹介をお知らせしたり、画面に表示される機能も提供しています。如何に「店舗に行ってみたら面白そうだ」と感じてもらうかについては、今、大きな構想を持っていますね。

奥谷 氏:
これは強みだと僕は思うんです。MUJI passportも同様ですが、購買のためだけに起動するアプリだと、4割から5割ぐらい支払いのタイミングでしか起動しないんです。

「それだったらiD-POSやクレジットカードと変わんねえんじゃねえか」と言われるでしょう。だからこそ、こういった探索的な行為をするという事が特徴であり、むしろこの行為に決済機能が付随しているといった方が自然だと思います。

古見 氏:
「メディア化しています」は言い過ぎかもしれませんが、コンテンツが一定の役割を果たしているというのは強く感じています。

向井 氏:
ユーザーに色んなコンテンツを見てもらえると予想してなかったという事でしょうか。

古見 氏:
もちろん見せたいという野望はありました。ただ、作り込んだコンテンツでなくとも思ったよりちゃんと見ていただけるんだなと感じています。あと、なぜかわからないんですが、ユーザーがプロフィールページをかなりの頻度で見ているというのも驚きましたね。

奥谷 氏:
自分が好きなんだ(笑)

向井 氏:
ヤマト運輸のアプリでは企業とユーザーの間にギャップを感じた事はありましたか?

中西 氏:
あまりないです。奥谷さんの話にもつながってくるんですが、我々にとっては「お荷物をお届けする事を知らせる事前の通知」が非常に重要な機能です。我々は、プロダクトの宣伝を目的としているわけではないので、広告はほとんどありません。

新商品や新サービスも基本的にはアプリを通じてお知らせする事は少なく、ヤマト運輸のアプリが通知するのはパーソナルなお客様の荷物の情報に絞っています。

通知のほとんどはユーザー自身の荷物情報ですし、アプリ以外のメール会員でもメルマガはあまり流れません。というのも、自分に関係するものしか通知は来ないという状態を守らないと、ユーザーはアプリを開かなくなるからです。

向井 氏:
社内で「自分に関係するものだけのプッシュ通知でいいでしょ」という言う人がいる一方で、絶対に「1,500万人会員がいるんだから、新しいサービスの案内送ろうよ」みたいな人がいると思うんです。それに関してはどうですか。

中西 氏:
そういう事を考えないわけではないです。

ただ、今世間では、「再配達」に関する問題が取り上げられる事が多いですが、我々は「如何にお客様にストレスなく受け取って頂くか」を主語で話します。ユーザー自身の荷物に関わる通知の事をメインに考えるので、それ以外の通知の事が主語になるのはあまりないように思います。

奥谷 氏:
徹底的に機能を絞って提供する事で、安心感にもつながるのかもしれません。でも、絶対にいつの日か、ヤマト運輸さんが持っている*「運ぶ」というデータは最強になる*と思っています。決済と同じぐらい重要です。「何を買っているか・どこで注文しているか」を知っているわけですから。

向井 氏:
ところでヤマト運輸さんは、LINEとアプリとWebの使いわけはどうやって決めているんでしょうか。

中西 氏:
我々はユーザーごとに選択をしていません。あくまで、ユーザーが「この方法で通知欲しいよ」という選択肢をご提供しています。

ただ、荷物はリアルタイムで動いており、通知したタイミングがユーザーにとっても1番多くの選択肢を選べる状態なのでタイムリーに通知を見て頂くのが、我々にとっても1番ありがたいです。

向井 氏:
とはいえ組織の中では予算があります。「LINEのbotと重複しているのに何かメリットがあるのか?」といった議論にはならないのでしょうか。

奥谷 氏:
そんな話、性格が悪い。さすがミスターマネタイズ(笑)

中西 氏:
確かに、そういう議論になる事はあります。

それこそLINEの便利さを体感している度合いも人それぞれで、社内の人間に便利さを伝え合意形成するのは少しパワーがかかります。ただ、「これでユーザーの受け取りが便利になって、荷物をストレスなく受け取って頂ける」という事については社内で疑う人間はいないですから。

向井 氏:
もはや物流そのものが社会インフラ化しているので、CSRの一環みたいな形なんでしょうか。

奥谷 氏:
それもありますけど、ヤマト運輸さんのカスタマージャーニーは、1回1回を1発で終えたいものなんじゃないでしょうか。

バク転して着地したいのに、「バク転してちょっと戻って」と言われても戻れないじゃないですか。だからこそ1回1回を全部しっかり着地させるという考え方なんだと思います。

これはヤマト運輸さんかかわらず、物流会社全体が求めているコミュニケーション戦略ではないでしょうか。

中西 氏:
そうですね。コミュニケーションにもコストがかかる事も事実ですし、何よりもユーザーさんが欲しい時にストレスなく1度でお届けしたいという思いがあります。  
  

自社だけではなく「アプリ×アプリ」のカスタマージャーニーが重要になる理由

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向井 氏:
マーケティングにおいて、カスタマージャーニーの設計は何のためにやるものなのでしょうか。それぞれの考えを教えてください。

奥谷 氏:
ちょっとカスタマージャーニーの話をする前に、なぜ僕がヤマト運輸さんとOrigamiさんと話したかったかを説明させてください。

実は飲食や小売においてアプリが普及していく中、もっと広がって欲しいと考えているのがこの2社のアプリなんです。

というのも、ビジネス側から考えると、例えば、ヤマト運輸さんがアプリtoアプリでつなぐ事によって、もっと荷物の受け取りを効率的にできるかもしれないと思っています。これは1つのカスタマージャーニーですよね 。

つまり、Eコマースや何か運ぶという事を通じて買い物する事の全部を知ってらっしゃる会社であり、そこにポテンシャルを感じています。

また、Origamiさんでいえば、モバイルペイメントは単なる決済であり、クレジットカードと一緒だと思われている方もいるかもしれません。

ただ、カスタマージャーニーを考えてみてください。

例えば朝、コンビニでジュースを買うのにOrigamiを使う。その後にお昼過ぎたら営業に行く。そのために使うタクシーでも使える……このように行動データとペイメントが結び付けば色々なコミュニケーションへと広がると思っています。

自社アプリでは結局自社の事しかわかりません。ですが、ヤマト運輸さんやOrigamiさんのようにアプリが広がる事で他社への好影響が出るアプリもあるんです。

だから、これからは自社のアプリのカスタマージャーニーだけではなく、「アプリ×アプリ」といったカスタマージャーニーが必要だと今は考えています。

向井 氏:
ヤマト運輸さんでは、カスタマージャーニーに対する考えはどのようなものがありますか。

中西 氏:
「カスタマージャーニー」という、カッコいい言葉はあまり我々の社内では使わないです。ただ、どこでお客様が我々のサービスに触れるのかはいつも考えています。

元々、宅急便はユーザーと対面する商売です。皆さんが生活動線上で宅急便を使う際に、深く考えたりいろんな比較をしたりしないと思うんです。「最寄りのヤマト運輸の拠点やコンビニなどで発送できる」といった感覚で取引が始まるのが一般的だと思います。

ただ、ここ最近では、Eコマースが成長してきた事によって、「受け取り」に今までにない切り口が必要だと感じています。

タイムリーなお話で言うと、今日11月20日の15時に新たなAPIをEコマース事業者向けに公開しました(注)

1社目はエアークローゼットさんにご導入いただいており、エアークローゼットさんを利用するユーザーなら、直接ヤマトと接点を持たなくても宅急便の配送時間や配送先の変更ができるなど自由自在にできます。

こうした取り組みは、Eコマースの成長に健全に貢献できる事だと思いますし、我々が旧来考えていた事とは少し違うEコマースならではの体験になると思います。こういう事を考える際に、我々はカスタマージャーニーに向き合っているのだと思います。

注釈:ヤマト運輸API
2017年11月20日ヤマト運輸は会員サービスであるクロネコメンバーズサービスのAPIをEコマース事業者向けに公開。これにより、Eコマースでもクロネコメンバーズサービスと連携したサービスを開発できるようになった。

参考:
ヤマト運輸がEC事業者向けAPIを公開 エアークローゼットが導入第1号に|ビジネス+IT

奥谷 氏:
Eコマースと言っても、結局は物流センターにいる人が商品をピックアップして、荷物に詰めて発送しなければ商品は届きません。

ヤマト運輸さんは、そういうアナログな部分に対してデータの連携を図る事で*「カスタマージャーニー理解のシームレス化」*につなげています。Origamiさんのような決済システムも同様です。

互いのカスタマージャーニーに乗っかっていく事で、ブランドとお客さんとの関係をよりスムースにしていく事が可能になっているんです。その入口として「アプリ」が重要です。

例えば、ユーザーにしてみれば、ヤマト運輸さんのアプリからオイシックスの荷物が届くか確認しても構わないし、うちから見てもらっても構わない。要するにカスタマージャーニーをスムースにしてくれるプレイヤーがここにいる2社なんです。

古見 氏:
奥谷さん、中西さんの補足として話をさせていただきます。

例えば、鉄道系ICカードは、登場してから長い期間経っていますが、1つの鉄道会社からほかの鉄道会社とも連携し利用できたり、コンビニや自動販売機の支払いに使えようになった事で、今のように普及してきたと感じます。

このように、「支払う」という事業は、インフラとしてあちこちで利用できないとサービス・アプリを持っている意味が無いと思っています。いくらダウンロード型の広告を出稿しても、使える場所がないとユーザーは利用を止めてしまいます。

そういう意味では、決済アプリアプリを利用できる加盟店とユーザーを考えながら、バランスよく運用していかなくてはならない。なので、加盟店でアプリを知って興味を持ち、サービス利用を始めるというプロセスにフォーカスしています。

現金よりもOrigamiの方がお得になるキャンペーンを加盟店と一緒に実施し、加盟店自体も売上を上げていこうという取り組みです。支払うインフラというイメージの決済サービスが売上に貢献できるとなると、店員さんもアプリをオススメしてくれる、という良い回転が生まれています。

奥谷 氏:
アプリでなくても、決済を提供するサービスはすでにあります。クレジットカードであっても購買履歴は蓄積されていくでしょう。

でも、何を買ったかではなく、ユーザーとどうコミュニケーションをとるかが大切なんです。後発の電子マネーでも、アプリで提供する事によってお客さんとコミュニケーションを取れているように思いますね。
  

カスタマージャーニーでアプリが果たす役割

向井 氏:
アプリのカスタマージャーニーでは、サービスの認知を広めていくというパターンとCRMのようにコミュニケーションをとりつつ、リテンションを狙う事で購買単価の上昇を狙うパターンがあるかと思います。

そこで、皆さんのアプリはそれぞれどちらの位置付けがされているのでしょうか。

古見 氏:
Origamiはどちらかと言うと後者からスタートしています。弊社のチーム体制としては、マーケターとグロースエンジニアチームが一体になったグロースチームをひいています。

そこで、例えば、インストールしてから1day……7dayと経過していく中で、どんなコンテンツを当てていくかなどを常に考えています。

だから、こういう運用型の考え方が癖というか習慣になっています。アプリ自体のUI / UXを変えていこうというエンジニアとの連携が普通の事になっています。

中西 氏:
ヤマト運輸は言わずもがな後者ですね。我々のアプリの中には、「My問い合わせ」というサービスがあって、明日届く荷物があったらアプリのプッシュ通知が来ます。そういった通知がどんどん自分の履歴として溜まっていく……受け取る荷物も発送する荷物もアプリの中に勝手に溜まっていくんです。

それがEコマースの荷物でも、ご家族から送られてくるものでも個々の荷物情報がたまっていく。そうなると、荷物を受け取るタイミングがきたら、ユーザーはアプリを開いてくれるようになっていきます。

向井 氏:
奥谷さんはMUJI passportの生みの親ですけど、最初の時のコンセプトは認知・検討のフェーズを狙っていたんですか。

奥谷 氏:
いえ、やっぱり最終的にはCRMですね。結局人間がダウンロードするアプリってずっと一緒なんです。だからリテンションが利かないアプリは意味がないです。

今オイシックスでもLTVが最も高いお客さんはアプリユーザーです。アプリの課題の1つはダウンロードですが、1回起動したからといってマネタイズはできません。

リテンションをかけていき、ウェイトを出す必要があります。アプリがダウンロードされればされるほど、アプリがどんどんメディア化していく。

例えば、無印良品の時に非常に良いと感じたのは、チラシを止めてもアプリでのコミュニケーションでロイヤルカスタマーへのエンゲージメントが高まり、売上も上がった事です。

その分、広告戦略をMUJI passport原資に充てられるという効果がでました。刹那的・キャンペーンベースのアプリ開発をしてきて思うのは、やっぱりずっと使われて何回も見られなければ、アプリを作る意味がないだろうという事です。

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シームレスな買い物体験を 〜 これからのカスタマージャーニー 〜

向井 氏:
この先、カスタマージャーニーを考えていく上で何が大事になっていくか。どういう視点でこれからのマーケティングを見て、カスタマージャーニーを考えていくといいと思うか教えてください。

奥谷 氏:
そうですね、短期的に言うと決済が見えないような形のカスタマージャーニーがいいのかなと思っています。

例えば、百貨店に行って買い物すると会計の時に待たされると思います。でも*「ピッでええやん」*と思いませんか?

日本は安全な国なので「お金」への信頼度が高いんですが、お金というのはそもそも交換の証明として存在しているだけなんです。これから金融とかお金関係のデジタル化が進んで、Fintechやアプリが世の中を変えていくんだろう思っています。

長期的には、*「どんなデバイスでも変わらない、シームレスな買い物体験」*がいいのかなと思っています。

向井 氏:
なるほど。1社のカスタマージャーニーではなくシームレスに、認知から検討、購買までつながり、さらにロジスティクスや支払までが1本でつながるのが実現できるといいんじゃないかという事ですね。中西さんはどうですか。

中西 氏:
「Webでどうお客様とコミュニケーション取っていくか」とセットの話として、お客様と実際にお会いする場面も考えていかなくてならない重要な事と思います。我々の場合、多くのお客様とお会いしていますから。

ヤマト運輸では、アプリだけではなく、Web会員も含めて一般的なアプリ事業者が提供しているよりも高年齢な層にリーチできていると思っています。それは、対面でサービスのご説明をしたりオススメをしたりといったコミュニケーションを取れる事に我々の強みがあると思います。

つまり、カスタマージャーニーの中で、どうやって、どのタイミングで接点を持つかは今後我々が大事にしていくべきところなんだろうなと思っています。

向井 氏:
本質的で忘れてはいけない部分をずっと大事にされている感じがしますね。ありがとうございます。では、古見さんいかがでしょうか。

古見 氏:
奥谷さんが言うようなシームレスなカスタマージャーニーを目指していくために、アプリとWebでは同一ユーザーの行動だとしても、なかなかデータが交換し合えない部分がまだまだ残っていて、アプリが「離れ小島」みたいになっているのがまだ解消してないと思っています。アプリを*「離れ小島」*にしないための分析や、つながり作りが今後より必要だと思います。
  

まとめ

アプリマーケティングと聞くと、如何にダウンロード数を稼ぎ、課金モデルを成立させるかといったところに注目が集まりがちです。

ですが、従来アプリ市場の中核を担ってきたゲームアプリとは異なり、サービス系のアプリの場合はマネタイズよりもユーザーのカスタマージャーニーをどのように描けるかが重要となってきます。特にこれからWebサービスをアプリに展開していこうという事業者は、Webサービスとのかかわりを考えながらカスタマージャーニーを考えていく必要があるでしょう。

アプリマーケティングでは、まず自分が実際にアプリに触れ、優れたUI / UXアプリから学ぶ事が大切です。今回紹介したアプリを実際にダウンロードして、ぜひユーザーの視点でカスタマージャーニーを考えてみてはいかがでしょうか。